Q: 当社は日系の貿易会社です。新型コロナウイルスの感染爆発前に従業員Aを国外に出張させており、Aは中国に帰国後、政府指定のホテルで集中隔離されていたのですが、隔離期間中にAが別の病気にかかってしまいました。この場合は会社に関係するでしょうか。
A: 新型コロナウイルスの感染を防止する必要性から、帰国した者は政府が指定する施設で集中隔離しなければならないとされており、集中隔離期間の費用は自己負担とされています。この期間中、従業員は焦りや不安、不規則な生活等から身体機能が低下し、身体的・精神的な疾患を誘発する可能性があります。従業員が隔離期間中に突発的に発病した場合、会社が責任を負担するのか、どのような責任を負担するのかは、一概に結論付けることはできず、個別のケースごとに具体的に分析する必要があります。
◇従業員が隔離期間中に病気になり治療が必要となる場合、会社は一定基準の病気休暇賃金を支払う必要がある
隔離期間中、従業員の活動が制限されて突発的に発病した場合、その治療期間において、会社は一定基準の病気休暇賃金(本人の賃金の60%~70%、最低賃金の80%を下回ってはならない)を支払う必要があります。従業員が48時間を超える治療の過程で疾病のために死亡した場合、関連法律規定により、会社は従業員が業務によらず死亡した場合に相応の待遇(救済一時金、扶養直系親族の生活困難に対する補助費用等)を負担しなければならないとされています。具体的にどのように支払うかについて関心のある方は、弊所にお問い合わせください。
◇従業員が隔離期間中に発病し死亡した場合に労災認定が下りるかどうかには不確実性がある
『人力資源社会保障部弁公庁 新型コロナウイルスによる肺炎の感染流行対策期間における労使関係問題の適切な処理に関する通知』(人社庁発明電〔2020〕5号)第1条の規定により従業員が政府の実施する隔離措置のために正常に労働を提供できなくなった場合、企業は従業員にその期間分の労働報酬を支払うべきであるとされています。ただし、従業員の隔離期間が勤務時間や職務とみなされるかどうかについて、法律や関係機関による明確な規定は設けられておらず、各地の政府機関によっても認識が異なる可能性があります。従業員が隔離期間中に発病し死亡した場合に労災とみなすかどうかは、従業員の発病の原因を分析し、突発的な疾病か、もとからすでに疾病があったのか、疾病と死亡の因果関係、従業員は発病時点において勤務中の状態であったかどうかを総合的に考慮し、分析する必要があると思われます。
これまでに北京市において、集中隔離期間中に突発的な心臓病により死亡したケースを労災(による死亡)と認定した初の例がありますが、このケースに普遍的な適用可能性があるかどうか、他の地域においてもこのような状況が同様に労災と認定されるかには不確定性があり、現地政府機関と協議、交渉する必要があります。最終的に労災にあたるかどうかは政府機関の意見に準ずる判断となり、会社が政府機関の意見に不服である場合は、行政不服審査を申し立てるか、裁判所に行政訴訟を提起するという選択肢もあります。
◇日系企業へのアドバイス
突如発生した新型コロナウイルスに対し、いかにして従業員の精神疾患、労災を防止し、企業のリスクを軽減するかは、企業や従業員がともに直面する新たな課題となっています。この期間中に従業員に身体的、精神的な疾病が生じた場合、会社は従業員に自宅で休息させる選択を検討することが可能です。なおかつ、日常業務の中で、従業員とコミュニケーションを取り合うことで、従業員の心理面、身体面の状態を適時に把握して従業員に有効なヘルスケアと自己調整を行うよう促し、サポートすることもできます。同時に、隔離期間中の従業員の突発的な疾病による死亡が関係機関により労災と認定されるか否か及び関連手続きについて理解する必要があり、雇用者責任保険への加入により会社の負担を軽減することができるため、検討されるとよいでしょう。従業員の集中隔離中に身体的、精神的な病気にかかり、万一死亡してしまった場合には、会社や従業員とともにこの特殊期間を乗り越えるべく、専門の弁護士に、従業員やその家族及び政府機関との交渉、適切な解決を依頼することができます。