Q: 感染の流行により、提携先サプライヤーでは注文急減のため、いつ操業が停止されるかわかりません。企業ではサプライチェーンの中断によるリスクにどう対応すべきでしょうか。
A: 新型コロナウイルスの全世界的な大流行と中米貿易摩擦の影響を受け、各地の市場でニーズが落ち込み、物流の積載量や効率が低下し、川上サプライヤーの注文が急減したことにより、生産規模が縮減され、随時操業停止となる懸念があります。
サプライヤーが生産、操業を停止すると、川下企業では操業停止、ひいては顧客への違約金支払いに至る一連のリスクに直面します。サプライチェーンの分断によってもたらされるこれら一連のリスクに対し、いかにして新たなルートや方策を見出すかが、各企業で最も注目され、悩まれる問題となっています。
◇企業がサプライチェーンの分断リスクに対応するための合理的な対策
サプライチェーンの分断がもたらすリスクから企業が身を守るために、弊所の実務経験から以下のアドバイスをご提供いたします。
1.従業員に対し、外部コミュニケーションに関する研修を実施し、速やかにサプライヤー、川下の顧客との連絡を強化する
(1)企業で感染対策期間の外部コミュニケーションに関する研修を強化し、不用意な発言や整合性のない発言によって外部にマイナスの印象を与えることを避けるようにします。
(2)企業の既存の情報システムを積極的に活用して感染状況に関する情報を収集、伝達し、サプライヤーと適時連絡を取り、速やかに生産計画や販売計画を調整します。
川下の顧客に対し、川上のサプライヤーの状況に基づき、弁護士に委託して総合的な分析・評価を行い、川下の顧客と積極的に交渉し、相手方にその損失を軽減する方法を速やかに通知します。
2.サプライヤーの候補をより多く持ち、その契約履行能力や信用について弁護士による総合的な考察、評価、確認を受ける
(1)企業のサプライヤーリストに複数のサプライヤーを登録する
企業の平常時のリスクコントロールにおいては、1、2社のサプライヤーがあれば問題ないかもしれません。しかし、SARS、MARS、新型コロナウイルス等が流行し緊急事態となった場合、1、2社のサプライヤーだけでは、地域のサプライチェーンの分断により原材料の供給が止まり、企業が川下の顧客に対して賠償の違約金を支払う状況となってしまう可能性があります。このため、企業では普段から多めにサプライヤーを選定、評価して「予備サプライヤーリスト」に含めておく必要があります。
(2)サプライヤーの信用、契約履行能力を見直し、評価して企業の「優良サプライヤーバンク」を作る
新型コロナウイルスの感染流行の影響を受け、サプライヤーによっては出荷ができなくなったり、倒産したところもあり、企業が以前支出した費用が無駄になってしまったケースもあります。このようなときこそ、企業がサプライヤーに対する審査と評価を強化し、どのサプライヤーであれば自社の「サプライヤーバンク」に含めることができるかを検討しておく必要があります。
サプライヤーの審査、評価について、主に契約履行能力、信用及びその他の各方面を総合的に考慮したうえで選定、評価し、この時期に後のサプライヤーの信用や契約履行能力について考察しておくことは、企業が自社の「優良サプライヤーバンク」を持つためにも有益となります。企業より弁護士に委託して、現有及び後の候補となるサプライヤーの契約履行能力、信用等の多方面にわたる審査、評価、考察を行い、より多くのサプライヤーと交渉を行うことで、優良なサプライヤーを優良サプライヤーバンクに収めます。
3.合理的な在庫管理
企業のサプライチェーンが分断したとき、短期間内の市場ニーズの低迷により在庫の消化により時間がかかるようになり、財務出費の増加によって資金繰りが苦しくなる点に十分注意する必要があります。また、生産リードタイムが比較的長い業種では、感染収束後のリバウンド消費に備え、在庫不足となるリスクを予防する必要もあります。
4.弁護士による社内業務調査、リスク評価を受け、企業自身のリスクコントロールを十分に行う
サプライチェーン分断のリスクは、企業がサプライヤー候補を選定、評価するのみでは完全には防止することができないため、企業より現地弁護士に社内業務調査、審査を委託してリスクを制御することをお勧めいたします。
一般に、国外の検査、審査業者で中国国内の弁護士のよう詳細な調査を行えるとは限らず、企業のさまざまな面の問題について国外業者は全く把握できないことがあります。このため、必ず弁護士にDDのような社内業務審査を依頼し、企業で発生しうる問題の重点を分析したうえで、事項の重要度、緊急度に応じて解決案や対策の提示を受けることが必要となります。
◇感染流行期間/後期における日系企業へのアドバイス
各業界、各地の日系企業が感染流行により受ける影響の程度は異なりますが、全体的に、日系企業のサプライチェーンや産業チェーンには程度の異なる分断が起きており、いずれも市場のニーズ低下、物流担当者の制限及び債権回収等のリスクに直面しています。日系企業では複数のサプライヤー候補を選び、弁護士のサポートのもとで改めてサプライヤーの選定、評価、考察を行うとともに、社内調査及びリスクコントロールを適切に行う必要があります。このような一般的な内部調査やリスクコントロールによって全ての問題が解決されるとは限りませんが、企業の重要問題が明らかになったり、一部の問題が解決する場合もあります。
各企業の性質、顧客、サプライヤー、生産能力の計画、在庫、所在地域、感染流行の影響程度等には差異が存在するため、上記の対策を直接適用するのではなく、具体的な問題に基づき分析することが必要となります。現地法人より弁護士に委託し社内業務調査を行うことで、具体的かつ実行可能な対応策が得られるようになります。