現実に、債権者が知らないうちに、債務者により密かに会社の清算・登記抹消が行われ、債権者が事情を知る頃には債務者の抹消が完了されているということがあります。このような場合において、債権者が権利を保護するためにはどうすればよいでしょうか。
◇債権者への賠償は誰により行われるのか
『会社法』等の法規による規定で、会社を清算する際は、法により清算組を立ち上げるとともに、会社の解散・清算について書面で「知れたる債権者」全員に通知を行い、新聞公告の掲載を行うことが必要であるとされています。
実務では、多くの会社が新聞公告掲載のみを行い、新聞の発行状況が地域によって限られる等の欠点から、債権者が適時に情報を受け取ることができず、情報を入手したときには債務者の登記抹消がすでに完了されているということがあります。この場合債権者は、債務者の株主が清算義務者として債務について相応の賠償責任を負うべきであると主張することができます。
◇債務者の一部の株主が清算に実際に参加していないと抗弁した場合、免責を構成するか
株主は、法律及び会社定款に基づいて株主の権利を行使し、株主の職責を履行します。株主が会社の清算等の重大事項について、事情を知らなかったために異議を唱えなかったという状況は、それ自体が株主の権利行使及び株主の義務履行の怠慢にあたるため、会社の株主が清算について知らず、清算報告書への署名は真実の意思表示ではなかったという理由で抗弁しても、免責を構成することは不可能です。
◇賠償金額の計算
清算にかかる賠償責任は権利侵害責任にあたり、債権者の損失と、株主が法通りに清算行為を行わなかったことの因果関係を考慮する必要があります。実践上、一般には法通りに清算した場合に債権者が得られるべき金額により賠償することとなります。
また、法通りに清算した場合に債権者が得られるべき金額についての立証責任は、清算義務者である株主が負うべきものとされます。会社の株主は、法通りに清算した場合における会社の真実の残余財産の金額を証明できなければ、不利な結果を被ることとなります。
◇弁護士のアドバイス
新型コロナウイルスの影響下において、多くの企業が存続の危機に直面し、閉鎖・抹消を余儀なくされたところも少なくありません。債権者が債務者の経営の変化に関する情報を速やかに入手できなければ、自己の権利保護は極めて難しく、対応や交渉のうえでも主導権を握ることができなくなってしまいます。企業では、ビッグデータや弁護士の専門性を活用して債務者の変化を随時把握することで、回収不能や不良債権を回避することをお勧めいたします。
一方債務者としても、抹消すれば全ての債務も一緒になくなるものと考えるのではなく、必ず合法、適法な形で会社の登記抹消を行うようにしなければ、株主に賠償責任を負わせることになりかねません。