8月7日、中国のEC大手アリババグループの女性従業員が、顧客との会食中に上司から飲酒を強要されたうえ、上司から性的暴行を受けたことがネット上で明らかになりました。社内管理制度の欠如と女性への権利侵害を疑われたアリババは、中央規律検査委員会および人民日報から名指しで批判され、強制わいせつ罪の疑いで警察による強制措置を受けました。また、高級管理職2名が引責辞職し、当該男性マネージャーは懲戒解雇処分となりました。
現地企業でこのようなセクハラ問題が発生し、メディアに報道されると、企業ブランドやイメージへの影響は計り知れず、レピュテーションリスクとしていかに発生を防止するかは、現地企業や本社の関心事項です。
『民法典』第1010条、『女性従業員労働保護特別規定』第11条では、企業には職権や上下関係等を利用したセクハラ行為を防止するための通報受理、調査処置等の措置を講じる義務があると規定されています。セクハラ防止の手段として様々な対応を講じるべきで、実務対応として以下のような対策が挙げられます。
(1)事案発生前:「就業規則」にセクハラ防止、懲戒に関する条項を盛り込んでおく。従業員が告発する手段として、立場上中立の第三者(例えば法律事務所等)にホットラインを設置することで客観的な記録を作成し、従業員からの告発を受ける。定期的に高級管理職向けの社内研修を定期的に実施してセクハラ防止に関する法律知識を説明し、高級管理職や従業員に法令遵守の意識を高める。
(2)事案発生時:必要に応じてセクハラ事案の内容について客観的かつ中立な立場からの調査を法律事務所に委託する。証拠として録音・録画データ、チャット記録、画像等を確保し、権利侵害をした行為者と面談して事件の動機、経緯、場所等の調査を行う。
(3)事案発生後:就業規則に照らし、会社としてセクハラ行為をした従業員に対する懲戒処分を速やかに行う。ただし、不法解雇とならないよう十分に注意を払う必要がある。
◆日系企業へのアドバイス
企業には、従業員間のセクハラ防止措置を講じる義務があり、事前に適切な対応を取らずにセクハラ問題を阻止できなかったとなると、従業員から会社に損害賠償を求められる可能性があります。一方で、会社が法律上の義務を履行したことを抗弁できれば、賠償責任の法的リスクを回避又は減少させることも場合によっては考えられます。
また同様に、商業賄賂や職務横領等のコンプライアンスに反する行為も、会社に深刻な影響を及ぼします。毎年、現地企業の中国籍高級管理職・経営陣向けのセミナーを定期的に実施し、職務横領、商業賄賂、セクハラ等の各種コーポレートガバナンス、コンプライアンスの問題に対応することで、健全な経営管理に十分な効果を発揮するでしょう。