今年7月1日、人力資源社会保障部弁公庁より『電子労働契約締結ガイドライン』が公布され、電子労働契約の締結に関する具体的規則や詳細規定が明確になりました。この『ガイドライン』公布は、2020年3月に人力資源社会保障部弁公庁が発表していた電子版での労働契約締結を認める旨の文書の内容をさらに規範化しただけでなく、今後の労働契約の重要な形態が電子契約書となる趨勢を示すものともなりました。今回は電子労働契約書を締結するにあたっての留意点について、法律法規と実務経験を踏まえてご紹介いたします。
◆実務対応上の留意点
1.賃金、残業代、職業病、勤務地等、契約の必須条項となる内容
電子労働契約書の内容に対する要求は、紙ベースの契約の場合と同じですが、締結後の修正は行いにくくなります。このため、締結前に基本給、残業代、職業病、協業制限、守秘義務、契約期間、勤務地、業務内容等の必須条項を改めて確認したうえ、補充条項については別途紙ベースの協議書締結により電子労働契約書に対する変更を行えることを約定しておく必要があります。
2.電子署名の要求、タイムスタンプ、契約の保存
電子労働契約書の締結にあたっては、従業員の身分情報を完全、正確に記載するほか、『電子署名法』の規定に従い電子署名を使用し、信頼できるタイムスタンプを押すことにも留意する必要があります。締結後、会社では『労働契約法』に定められた保存期間に従って保存するとともに、労働者にSMS、WeChat、電子メール等でダウンロード・保存を行うよう告知します。
3.社内規則制度、就業規則との整備と修正
電子労働契約書を締結する際、プラットフォームでは個人情報等の検証、確認を行う全過程が記録・保存されます。『個人情報保護法』が公布されて企業の個人情報保存にかかる義務が一定程度加重されたこともあり、企業では既存の社内制度や就業規則の見直しを行い、弁護士に相談し、新たに公布された法律法規に照らして調整、修正を行うことで、社内制度や就業規則と電子労働契約書の内容を整合させるよう留意するとよいでしょう。
◆日系企業へのアドバイス
会社の規則制度の更新、整備は、労働紛争を回避するための基礎や根拠となるもので、電子労働契約の締結に伴い、就業規則や従業員制度への対応も発生するため、企業では社内の実情を踏まえ、弁護士と適時話し合い制度の整備を行うとよいでしょう。また、政府機関が運営する締結プラットフォームでは、現地の人力資源社会保障機関が提供するデータ書式や標準を適用して電子労働契約データを提出することができ、就業・雇用の届出、社会保険、業務研修等の手続きがより簡便に行えるため、優先利用をお勧めします。