新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、PCR検査で陽性となる方が増えています。実際、PCR検査の結果によって、解雇や転勤、不採用など、さまざまな問題に直面している労働者も多く、政府関係者や労働者などの間で懸念が広がっています。
こうした事態を受けて、2022年8月16日、人力資源社会保障部と最高人民裁判所は、新型コロナウイルス感染症から回復した人々に対する雇用差別を解決するために、『新型コロナウイルス感染症からの回復者など労働者の雇用上の平等な権利を確保するための行政および司法の連携強化に関する通知』(以下、『通知』という)を公布しました。この『通知』は、企業の労務・人事管理、採用等の行動に大きな影響を与えることとなるため、日系企業の人事や総務部署の方に抑えていただきたい内容です。
1.新型コロナウイルス感染症回復者に対する企業の差別的行動を明確化
企業が人材を募集するとき及び人材仲介業者が仲介活動を行うとき、新型コロナウイルス感染症の回復者等を差別する以下の行為を行ってはならないことが明確化されました。 (『通知』第1条)
(1)新型コロナウイルスのPCR検査で陽性反応が出たことを理由に、新型コロナウイルス感染症回復者の採用募集や採用を拒否すること
(2) 新型コロナウイルス感染症回復者に対する差別的な内容を含む募集情報を掲載すること
(3) 労働者の新型コロナウイルスの PCR 検査結果を無断で不法に照会すること
上記(3)については、企業が感染症対策を目的として、個人情報保護法に基づく個人情報(新型コロナウイルス感染症のPCR検査の結果等)を取得するために必要な手続を行っている場合、『通知』の規定には抵触せず、違法行為となりません。
2. 企業による雇用差別に対する監督と調査の強化
人力資源及び社会保障部門は、企業と人材サービス業者による雇用差別に対する監督と調査を強化しています。また、企業が求人情報の公開や面接・採用の過程で雇用差別を行い、労働者の評判に深刻な悪影響を及ぼす場合、政府当局による行政取調べや、メディアへの露出対象となる可能性があります。 (『通知』第2条)
実際、新型冠肺炎のPCR検査で陽性となった患者が回復した後、疲労、体力低下、不眠症、頭痛、記憶喪失などの後遺症が残るケースが多くあり、後遺症を訴える労働者をどのように扱うかは、今、企業にとって喫緊の課題となっています。適切に処理しなければ、労使間の争いに発展したり、政府当局からの処分を受けるなど、潜在的なリスクにつながる可能性があります。
◆日本企業へのアドバイス
雇用差別は、企業の法令遵守だけでなく、企業のブランド、イメージ、評判にも影響する大きな問題となり得ます。そのため、企業の人事・総務部署は、公開予定の採用情報や面接での質問内容についてコンプライアンス審査を行う必要があります。
実務上、具体的な対策として、面接時に体調を質問するような項目を追加し、新型コロナウイルスの感染歴を確認すると良いでしょう。
そして、企業が従業員の実際の状況を理解し、対象者の身体的条件が採用ポジションの条件を満たしているかどうかを確認することが重要となります。
また、PCR検査で陽性となった従業員については、身体の回復や後遺症の有無を確認する必要があり、会社の就業規則等に則り、現ポジションへの適性やその対応について総合的に協議・判断しなければなりません。労使間の争い発生を防止し、中国法人や本社の信用を守る適切な対応が今、求められています。