現在、中国には、自書遺言、代書遺言、印刷遺言、録音ビデオ遺言、口頭遺言、公証遺言の6種類の異なる遺言形式が存在します。 これまで、公証遺言の効力は他の遺言の効力に優先するとされていましたが、今でも公証遺言の効力が最も高いのでしょうか? 今回、弊所では実務上のケースを交え、この点を簡単に説明いたします。
1.事例紹介
王さんには3人の子供(男2人、女1人)がおり、妻を亡くしてから一人暮らしをしています。 2021年2月、王さんは公証役場で遺言書の公証を行い、その主な内容は「死後、全財産を3人の子供に平等に分配する」というものでした。王さんは2021年8月に脳梗塞を患い、身の回りのことができなくなり、その後は長男が父親の日常生活の世話をしていましたが、他の2人の子供たちはただ見舞いに帰ってきただけで、仕事が忙しく世話をする時間がないなどと、父親の世話から逃れていました。2022年5月、王さんは代書遺言の形で遺言を作成し、その主な内容は、亡くなった後、財産の3分の2を長男に残すというものでした。 2022年10月、王さんは亡くなりましたが、長男以外の2人の子供たちは遺産分割紛争裁判を起こし、公証遺言に従って分配するよう要求しました。
その結果、裁判所は父親の最後の代書遺言に基づき、王さんの遺産の3分の2は長男に帰属し、残りの3分の1を他の2人の子供が均等に分けるべきである、と判断しました。
2.公証遺言はもはや優先的な効力を持たない
『民法典』が施行される前は、『相続法』第20条の規定により、公証遺言は優先的効力を有するとされていました。 実務においても、公証遺言の効力が最も高く優先性があるという見方が多数を占めています。
しかし、公証遺言の内容は公証の方式でしか変更できないことを考えると、被相続人が病気などで公証を行うのが困難な場合、遺言の内容を変更することができず、被相続人の本当の意志を反映する面で不利となります。
そのため、現行の『民法典』第1142条では、「複数の遺言が作成され、相互の内容が抵触する場合、最後の遺言を基準とする」と規定されています。 つまりこれは、いくつかの遺言がすべて有効なものである場合、最後の遺言が基準となるということであり、公証を行った遺言の効力が最も高いわけではないということを意味しています。
本事例の遺産相続紛争は『民法典』の施行後に発生したため、『民法典』の規定が適用されることとなり、その判決は最後の代書遺言に準ずる結果となりました。
◆日系企業の皆様へのアドバイス
公証遺言は最高の効力を持たなくなったとはいえ、一般的に、専門の公証員を経て作成された遺言は、形式と内容の面でより規範化され、様々な理由で遺言が無効になる可能性が低いという点において、他より優位にあるといえます。
遺言作成は非常に厳格なものであり、インターネットからダウンロードした一般的な書式をそのまま使用することは、法的リスクが高くなるためお勧めできません。書式や内容に問題が生じて遺言が無効になるという可能性を減らすためにも、専門の弁護士に遺言の作成、確認作業をサポートしてもらうようお勧めします。