2023年9月1日、第14期人民代表大会常務委員会第5回会議において、『中華人民共和国民事訴訟法」改正に関する決定』(以下『決定』と略)を審議、採択しました。今回の改正では、外国関連民事・商事訴訟の手続きが重点的に整備され、特に外国関連民事・商事訴訟の管轄、送達の面で大きな変化があり、日系企業の中国での運営や紛争解決の場面においても、重大な影響を及ぼすものとなっています。各日系企業の皆様にご参考いただくため、今回はこの点を簡単に解説いたします。
1.外国関連民事訴訟の管轄範囲が拡大
同『決定』では、外国関連民事紛争の管轄権に関し、「その他の適切な関係」という管轄権状況を補足しています。つまりこれは、被告が中国に住所を有さず、契約締結地、契約履行地、訴訟目的物の所在地、差押可能財産の所在地、侵害地、代表機関の住所地、いずれの6種類の場所も中国にはない、という場合であっても、中国との「その他の適切な関係」(これについては裁判所が裁量権を行使して判断)があれば、中国の裁判所が管轄権を行使することもできるということを意味します。(『決定』第8条)
同時に、紛争と実際に関連する地点が中国の領域内にない場合でも、当事者は協議して中国裁判所の管轄を選択することができ、これにより、外国関連民事紛争当事者が協議により管轄裁判所を選択する難度は低くなりました。(『決定』第9条)
2.専属管轄が適用される状況の増加
民事訴訟法(2023年改正)により、中国裁判所の専属管轄が適用される状況に、以下の2種類が新しく追加されました。
(1) 中華人民共和国の領域内に設立された法人またはその他の組織の設立、解散または清算に関連する紛争に起因した訴訟、および当該法人またはその他の組織が行った決議の効力に関連する訴訟。
(2) 中華人民共和国領域内で審査付与された知的財産権の有効性に関する紛争により生じた訴訟。(『決定』第11条)
上記の専属管轄権に属する事件について、中国の裁判所の考えは、外国の裁判所には管轄権がないというものであり、外国の裁判所がこの種の事件について判決を下したとしても、中国の裁判所はそれを承認せず、また執行しません。
3.中国に住所を有しない場合の送達
中国には住所を持たない当事者に対して訴訟文書の送達を行う場合、従来であれば、中国に存在する分支機構に送達が行われても、当該分支機構には受理権限がないことを理由とし、送達を受ける者が抗弁することが可能でした。
しかし今回の改正により、中国国内に設立した独資企業または分支機構に訴訟文書の受理権限が有る無しにかかわらず、人民法院は中国国内に設立した独資企業または分支機構に対し直接送達することが可能になり、これによって外国企業または外国人は、その分支機構には受理権限がないことを理由として抗弁することはできなくなりました。
◆日本企業の皆様へのアドバイス
今回の『決定』は、外国関連民事・商事訴訟に関連する様々な規則を改正する内容となっており、外資系企業による外国関連民事・商事訴訟事件の処理にも大きな影響を与えています。企業が国内外で訴訟に直面している場合、訴訟提起の機会を逃し、裁判管轄、送達等の問題により裁判時の勝敗に不利となるリスクを負うことがないよう、現地弁護士とタイムリーに連絡・協議を行い、規則に則った方法で訴訟戦略を調整する必要があるでしょう。