食品と薬品は常に人民大衆、企業にとっての関心分野であり、中国の政府当局や司法機関にとっても、法執行、司法重点分野となっています。最高人民法院が2023年11月30日に発表した『食品・薬品懲罰的賠償紛争事件の審理におけるいくつかの法律適用問題に関する最高人民法院の解釈(意見募集稿)』(以下『意見稿』という)では、食品及び医薬品に関連する懲罰的賠償問題について詳細に定義されました。そこで今回は、各日系食品・薬品関連企業の皆様にご参考いただくために、当該『意見稿』の最新司法解釈のポイントをご紹介いたします。
1.「偽モノと知りながら購入」した場合でも10倍の懲罰的賠償金請求が可能
この『意見稿』では、購入する食品が食品安全基準を満たしていないことを知りながら購入した場合であっても、消費者は生産者や事業者に対し10倍の懲罰的賠償金を請求することができるとしています。
ただし、10倍の懲罰的賠償金を計算する際の算定基数は、一般に合理的な生活消費必要経費の範囲内とされていることに留意する必要があります。合理的な生活消費ニーズを超えての支出は懲罰的賠償金の算定基数とすることができません。 (『意見稿』第2条)
2.食品ラベル・説明書の瑕疵の表現パターン
食品ラベル、説明書上に「瑕疵」があるかどうかは、市場監督管理部門の法執行及び消費者クレーム、企業対応策の制定において重要な影響を与えています。この『意見稿』では、食品ラベル、説明書の瑕疵に見られる表現パターン例が列挙されています。
① テキスト、記号、数字のフォントサイズ、フォント種類、フォントの高さが標準化されていない、またアルファベットのフォントサイズやフォントの高さが中国語よりも大きく表示されている。
② 正味含有量、規格の表示方式、書式が規範化されておらず、食品、食品添加物及び原料使用の通称又は略称などが規範化されていないが、消費者に対し食品の安全について誤解を与えてはいない。(『意見稿』第7条)
食品ラベル、説明書にこのよう瑕疵がある場合、通常、主管部門から是正命令を受けることになるため、注意が必要です。また、瑕疵を修正する前に、当該ラベル、説明書が消費者に誤解を与えた場合、食品安全基準不適合と認定される可能性があり、消費者に対する懲罰的賠償金を支払う必要があると見なされます。
◆日系企業および駐在員の皆様へのアドバイス
この『意見稿』は、現時点では正式に法的効力を有するものではないものの、日本の食品・医薬品製造・販売業者が中国消費者との間で紛争となった場合においての参考または指針とすることができます。
当該『意見稿』で、「偽モノと知りながら購入」した者が懲罰的賠償を請求する行為を一定程度肯定していることから、食品・薬品の製造・運営に携わっている日本企業は、現地弁護士とタイムリーにコミュニケーションをとり、最新の規則に沿った司法スキルを駆使して製造・運営におけるコンプライアンス評価・調整を進めることにより、行政処分や名誉損失による損害を回避し、自社を守ることができるでしょう。