2024年7月26日、中国人民銀行は『ノンバンク決済機関監督管理条例実施細則』(以下『細則』という。)を公布・施行しました。本『細則』の発表後、国内外の中国人の間でノンバンク決済(主にWeChatペイとアリペイ)に関する注目と議論が高まっています。
   本『細則』は『ノンバンク決済機関監督管理条例』(2024年5月1日施行、以下『条例』という。)の具体的な規定であり、『細則』の発表が条例施行の僅か2カ月後であったことから、中国政府によるノンバンク決済機関への監督管理が厳格になることを意味しています。今回は、本『細則』の内容について、現地駐在員や海外華人、外国籍者の皆様の参考となるよう、簡潔に解説いたします。

1.WeChatペイ、アリペイなどの取引記録は最低5年の保存が必要
   『細則』第61条には、WeChatペイやアリペイなどの取引記録は最低5年間保存しなければならないと規定されています。詳細は以下の通りです。
(1)ノンバンク決済機関は、取引記録を取引終了後から少なくとも5年間保存しなければならない。
(2)司法機関による調査が終了していない場合、利用者の取引記録の保存期間を延長することができる。
(3)法律や行政法規が、取引記録に対しより長い保存期間を要求する場合は、その規定に従う。
   当該規定の実施後は、中国人民銀行や税務部門およびその他司法機関においてWeChatペイやアリペイの取引記録呼出の利便性がアップし、呼出可能な期間もより長くなったため、取引が呼出監視されるリスクが高くなったと言えます。

2.WeChatペイ、アリペイで規定送金取引額に達すると重点検査の対象となる
   『細則』第9条、第15条は、WeChatペイやアリペイなどは中国人民銀行の支店機構にアンチマネーロンダリングや反テロ融資措置に関する資料提出が必要であると規定しており、当該資料には多額及び疑わしい取引に関する報告が含まれています。
   2018年に施行された『金融機関多額取引及び疑わしい取引報告管理弁法』第5条は、重点検査を受ける状況として以下を挙げています。
(1)当日の1回又は累計の取引が5万人民元を超える場合。
(2)当日の会社から法人、または会社から個人への送金額が200万人民元を超える場合。
(3)当日の個人から会社、または個人から個人への海外送金額が20万人民元を超える場合、または国内送金額が50万人民元を超える場合。
   これは、銀行口座を介さずWeChatペイやアリペイなどノンバンク決済方式で行う国内資金の移転取引、外貨交換、送金取引なども監督管理を受けるということを意味しています。

◆日系企業、駐在員及び外国籍者へのアドバイス
   この新たな規制は、主にクロスボーダー決済業務におけるマネーロンダリングや通信詐欺などの金融リスクを防ぐために、WeChatペイやアリペイなどノンバンク決済機関の決済業務に対する監督管理を強化するものです。企業または個人がWeChatペイやアリペイなどの個人アカウントで会社の法人口座と頻繁に資金取引や海外送金を行う場合、資金の出所と用途の合法性、可能な限り取引金額を分散させること、取引のタイミングや回数を合理的に計画する点で注意が必要です。もし取引資金の出どころや用途、若しくは送金・外貨交換などの取引相手側の口座が、マネーロンダリングや詐欺に関わっているなら、自身のアカウントにも監督管理や凍結などの措置が及ぶ可能性があります。
   また、住宅購入や車両売買などの特殊な多額取引については、税務機関などによる処罰を避けるため、事前に車両購入や住宅購入取引契約書などの関連証明資料を準備し、必要な場合は銀行や税務局などの政府部門へ説明と交渉を行うことをお勧めします。
   とはいえ、日系企業や駐在員の皆様の過度な心配は不要で、日常的な取引や送金に大きな影響はなく、WeChatやアリペイの合法的で正常な使用には何の問題もありません。この『細則』の主な目的は、マネーロンダリングや違法取引などの犯罪行為を取り締まることである、という点を押さえておくことができるでしょう。