2024年11月8日、第14期全国人民代表大会常務委員会は、改正版『中華人民共和国アンチマネーロンダリング法』を可決しました。同法は2025年1月1日から施行されます。
   今回実施された同法の改正内容は多岐にわたり、銀行業、証券業、保険業、ノンバンク決済機関などの金融機関及び不動産仲介業、会計事務所、法律事務所、公証機関など特定の非金融機関におけるコーポレートガバナンスと運営に重大な影響を及ぼすことから、今回はその一部内容について以下にまとめました。

1.アンチマネーロンダリングの規制主体範囲を拡大
   従来の『アンチマネーロンダリング法』は、主に銀行、保険、証券などいわゆる金融機関が規制対象であり、非金融分野に対する監督管理面での具体的な執行基準や義務が不足していました。
   新法では、不動産デベロッパー、不動産仲介機関、会計事務所、法律事務所、公証機関、貴金属取引業者など、幅広い特定の非金融機関をマネーロンダリング防止義務主体範囲に組み入れ、具体的なマネーロンダリング防止義務を設定しました。(『アンチマネーロンダリング法』第63条、第64条)
   また、新法では国務院アンチマネーロンダリング行政主管部門にマネーロンダリング防止義務主体範囲を広げる権限が与えられており、新たなマネーロンダリングリスクに伴い規制が必要な対象をマネーロンダリング防止義務範囲に指定することができます。(『アンチマネーロンダリング法』第64条)

2.「リスク適応」ルールの追加
   新『アンチマネーロンダリング法』では、国際的に認められる「リスク・オリエンテッド」原則が「リスク適応」という表現によるルールとして新たに追加されました。これにはマネーロンダリングリスクの大小に応じてマネーロンダリング防止措置を維持し、正常な金融サービスと資金の流れを保障するという目的があります。(『アンチマネーロンダリング法』第4条、第30条)
   実務上では、銀行など金融機関及び特定の非金融機関が法執行検査を受ける際に当該原則を援用することができ、マネーロンダリング防止のリスク管理コントロール措置がマネーロンダリングリスクに見合うものであることを証明する十分な証拠を提出することで、その範囲を超えた義務又は要求については免除を申請することができます。
   もし銀行などの機関が企業に対し取引金額や頻度の制限及び業務処理の拒否などのリスク管理コントロール措置を講じた場合、企業は自社がマネーロンダリングに関わっていないことやマネーロンダリングリスクが低いことを証明する証拠を提出し、銀行などの機関と交渉することにより、リスク管理コントロール措置の解除や、医療保険や社会保険など基本的な金融サービスの享受を保障することができるという点に注意が必要です。

3.行政処罰範囲の拡大と罰則の強化
   旧法と比較すると、新法は銀行など金融機関の内部統制コンプライアンスに対する監督管理要求がより厳しく、また行政処罰の適用状況と範囲がより広くなっています。
(1)行政処罰適用状況を追加
   金融機関がマネーロンダリング防止の内部統制コンプライアンス制度において責任を負う部門の設置、人員の配置、リスク評価、独立監査、マネーロンダリング防止の研修、情報システムの構築、責任者の職務履行など多方面に渡る内部統制コンプライアンス要求を効果的に執行できていない場合、国務院の関係部門が企業に行政処罰を与える権利を有するとしています。(『アンチマネーロンダリング法』第52条)
(2)罰則の強化
   上記に該当する銀行など金融機関に対しては、警告、罰金(最高200万元)、関連義務の推進を制限又は禁止するなどの行政処罰が新たに追加され、行政処罰力が大幅に強化されています。 (『アンチマネーロンダリング法』第52条)
(3)董事、監事、高級管理職及び担当者など個人が行政処罰を受ける可能性
   事業者に対する処罰のほか、金融機関に違反行為がある場合、責任を負う董事、監事、高級管理職又はその他直接責任者は、情状の軽重に基づき、20万元以上100万元以下の罰金と就任資格の取り消しや関連金融業界業務への従事禁止などの行政処罰を受ける可能性があります。(『アンチマネーロンダリング法』第56条)
   また、個人に対し処罰が課されるどうかについては、『アンチマネーロンダリング法』の執行機関が自由裁量権を有するという点に注意が必要です。

◆日系企業へのアドバイス
   新『アンチマネーロンダリング法』では、上記改正ポイントのほか、金融機関及び特定の非金融機関の履行義務として、内部統制コンプライアンス制度及びシステム構築、顧客のデューデリジェンス、受益者の情報登録、情報保護及び秘密保持などが規定されています。これは中国政府による銀行などの金融機関及び特定の非金融機関などに対する高いコンプライアンス要求を示すものであることから、関連日系企業は早急に新『アンチマネーロンダリング法』の改正内容を正確に把握する必要があるといえます。
   同法は主に銀行などの金融機関や特定の非金融機関を規制するものですが、他の企業や個人が当該法の影響や制限を一切受けない訳ではなく、例えば、金融機関と業務関係にある企業や個人には、金融機関へのデューデリジェンスへの協力や、受益者情報を正確に登録するなどの義務が発生します。
   また、すべての企業と個人は、中国が認定したテロ組織と人員のリスト、国際連合安全保障理事会の制裁リスト、中国監督管理部門が認定した重大マネーロンダリングリスクリスト上の組織や人員に対し、アンチマネーロンダリング特別防止措置(金融サービスの停止や関連資金制限、資産移転制限など)を取る義務があるため、現地日系企業は取引相手に対するデューデリジェンスを実施し、取引制限や損失を回避する必要があります。