今年7月28日に最高人民法院が公布した『顔認証技術を使用した個人情報処理をめぐる民事案件への法律適用にかかる若干の問題に関する規定』(以下「本司法解釈」という)が、8月1日から施行されています。
   最近では顔認証技術が浸透し、都市管理、公共交通から、会社の勤怠管理、小区(団地)の出入り、携帯電話のログイン、ロック解除に至る生活のあらゆる面に応用されています。この技術によって企業や自然人は利便性を享受する一方で、問題ももたらされています。商業店舗によっては、顔認証技術を使用して消費者の同意なく無断で採集した顔識別データから消費者の性別、年齢等を分析し、それらに合わせたマーケティング戦略を取るといったことも行われています。
   このような実態に基づき、最高人民法院では顔認証データを使った個人情報処理に起因する民事紛争事案について関連規定が設けられました。今回は本司法解釈のポイントを以下にご紹介します。

◆ 本司法解釈のポイント
1.自然人の人格権益を侵害する具体的状況の認定
   本司法解释第2条では、自然人の人格権益が侵害される状況を8通り挙げています。そのうちの一つに、「情報処理者が自然人の顔識別データの処理の目的、方式、範囲を明示により告知しない」があります。
2.自然人の権利保護で発生した弁護士費用についても賠償請求可能
   本司法解釈第8条では、自然人の財産損失の範囲を定義しています。自然人が権利保護のために行う調査、証拠取得にかかった費用や合理的な弁護士費用はいずれも、権利侵害者に賠償請求することができるとされています。
3.小区の管理業者は不動産所有者の顔識別データ採集を強制できない
   本司法解釈第10条では、管理業者等の特殊業種に対する規制を定めています。管理業者は不動産所有者に顔識別データの登録を強制してはならず、顔認証方式によって小区の出入りを管理する場合、不動産所有者から顔認証以外の方式を要求することができ、侵害を受けた場合には管理業者に賠償を請求することができます。

◆ 日系企業へのアドバイス
   本司法解釈は『民法典』、すでに公布され、今年11月1日から施行されることになっている『個人情報保護法』とともに、個人情報保護の法的枠組みを構成するものとなっています。
   日系企業で、顔認証技術を使って勤怠管理や業務処理を行う場合には、事前に従業員の同意を得る等適法な手続きを履行し、個人情報の漏えいを防止するための一定の技術措置や必要措置を取らなければ、賠償や権利侵害責任の負担を要求されることもあるため留意する必要があります。
   中国現地に滞在する日本人駐在員、出向者あるいは店舗経営者は、居住する小区への出入り、携帯アプリの利用、店舗管理等、さまざまな面で顔認証技術と関わることがあるため、自身の個人情報のセキュリティをいかにして守るかも、留意すべき問題となるでしょう。