Q: 日系企業の当社では、現在1名の従業員が自ら社会保険料を納付したくないといい、自由意思で社会保険料の納付を放棄する旨の承諾書にも署名しています。当社がこの従業員の社会保険料を納付しないことに、問題はないのでしょうか。

A: 中国では、社会保険料の納付は、企業が従業員に対して負う義務であるだけでなく、企業が政府や社会に対して負う義務ともされています。『社会保険法』の関連規定により、従業員のための社会保険料の納付は、企業が強制的に負う義務であるとされています。社会保険料は、企業負担分と、個人負担分の2つの部分から構成されています。これらの2つの部分は、まとめて企業により社会保険料の徴収機関に納付されます。従業員の個人負担分は、企業が従業員賃金から源泉徴収することが認められています。

このため、従業員本人が書面により放棄し納付しないとした場合であっても、企業が従業員の社会保険料を納付するという法定の義務が、完全に免除されることはありません。企業が法定基準の通りに従業員の社会保険料を適時に納付しないと、以下のリスクが生じる可能性があります。

1.従業員より所管人力資源社会保障局、労働監察機関に苦情を申し立てられたり、通報され、労働仲裁を申し立てられる可能性もある。従業員の意志が変わり、会社は規定の通りに社会保険料を納付していないとして労働契約の解除と経済補償金の支払いを要求される。

2.企業は法により従業員の社会保険料を追納しなければならないほか、所管政府機関により、制裁金、延滞金を科す等の処分を受ける。

3.出産予定のある女子従業員について社会保険料を納付していないと、出産休暇期間中に人力資源社会保障局から出産手当を受給することができなくなるため、会社は女子従業員の出産前の基準で賃金等を支給しなければならなくなる。

4.労災を受けた従業員について社会保険料を納付していないと、人力資源社会保障局から労災保険金を受給することができなくなるため、相応の待遇を企業に負担するよう要求を受ける。

5.信用失墜の「ブラックリスト」に入れられ、人力資源社会保障部、商務部、税務総局、税関等の複数の機関から合同懲戒を受け、企業の信用に影響が及ぶ。合同懲戒では、次のようなリスクがある。①企業のみならず、その法定代表者、実際支配者、董事、監事、高級管理職、関連する責任者等も、相応の懲戒を受ける。②所管政府機関が企業への日常の監督管理を強化し、無作為抽出調査を受ける確率と頻度が高められる。③ニュースサイトを通じて社会に公開される。

現在、中国政府は複数のルートから社会保険の徴収管理に対する監督管理を強化しており、社会保険分野においての企業の違法コストは増加し続け、企業の信用にも一定の影響が及ぶようになっています。また、社会保険料の税務機関による統一徴収化が進んでいることと、ビッグデータ時代の到来と発展に伴い、政府の監督管理の中で企業の情報がいっそう透明化され、社会保険料の未納、過少納付、納付漏れが取り締まりに遭う可能性も高まっています。このため、社会保険料を正しく納付し、法の定める通りに従業員の社会保険料の納付を行うことが企業に勧められます。

作成日:2018年12月20日