Q:日系企業の当社は、取引先に商品を納品するサプライヤー企業ですが、当社が契約を履行する過程において、どのような点に注意する必要があるでしょうか。

A:一部の企業では、契約の締結のみを重んじてその履行を軽視し、締結さえしてしまえば後の問題はないものと思い込んでいることがあります。締結された契約の約定が網羅的で詳細にわたっていたとしても、そのことはリスクがないことを意味しないという点への認識がないということもあります。契約の履行過程における管理をおろそかにすると、履行上のリスクも増加することになります。売買契約の供給サイドとして、契約履行時に留意すべき点は数多くありますが、そのうち一部のみを以下で分析いたします。

1.契約書、検収票、据付・試運転に関する文書、証明書等の関連書類の保管。
実務において、一部の企業で、契約に関するやり取りの中での重要文書の保管を重視せず、紛争となった場合に、証拠書類が不足、欠如していることにより企業が権利を主張することができず、損失を被ったというケースもあります。これについて、企業では以下の面で契約書等の重要書類の保管・管理を強化することができます。

①会社が決めた管理担当者が関連書類を統一保管し、業務担当者には自分で保管させない。
②各種の書類を分類して通し番号を振り、電子データのアーカイブを設ける。
③業務担当者が速やかに書類を提出しない場合、管理担当者により催促し、確認する。
④閲覧記録をつけるようにし、書面の資料の閲覧、使用について台帳に記録を取る。

2.契約に約定された各期限に注意する。
①約定通り契約を履行することを保証し、自身の違約行為により相手方から権利の主張を受けることを防止するか、サプライヤーからの要求に対抗することができるようにしておく。
②企業が契約に約定された期限を過ぎたために、一部の権利を行使する権利が失われることを避ける。

3.品物の検収管理を強化する。
検収票にはできれば検収者の社印を捺印してもらい、その従業員による確認の署名を受けることが望ましいですが、捺印が不可能であれば、検収する者が契約において約定された検収者であるかどうか、或いは企業の委任状を持っているかどうかに注意し、双方間で紛争が発生した場合、受取側が納品物を受け取ったことを認めず支払いが拒否されることのないようにする必要があります。

4.財務管理面
毎年、又は定期的に受取側と帳簿の照合を行い、相手方に照合確認書、未払金確認書等の発行を求めます。
このようにすることのメリットとして、次の点が挙げられます。

a.双方の記帳の不一致を確認し、問題の速やかな発見がでできる。
b.財務担当者が離職しても、帳簿の状況が不明とならない。
c.特に、双方で紛争が発生した時の訴訟時効が到来した事態を有効に回避することができる。

5.相手先企業の資産・信用状況には常に注意を払う。
長期取引で、未払金が高額となっている客先の資産・信用状況が一旦悪化すると、企業にとっては相当の経済的損失となることがしばしばあります。このため、契約の履行段階においては、サプライヤー企業でも取引先の資産・信用状況を随時調べ、把握しておくようにし、必要に応じて取引先を定期訪問することで、双方の提携をより深めつつ、取引先の経営状況、約定履行能力等を窺い知ることができます。

以上の通り、供給サイドが契約の履行過程において遭遇しやすい問題をいくつか挙げましたが、契約の履行過程での有効なフォローと管理をおろそかにしたためにリスクを招くということは、多くの企業で実際に起きています。企業では各契約の履行状況をフォローする専任者を置くことで、契約の履行過程において問題が起きたとき、ただちに報告させて有効な措置を取り、自社の損失を抑えることができるよう、自社の約定履行を確実なものにし、取引先の約定履行にも注意を払うようにするとよいでしょう。

作成日:2019年03月18日