Q. 日系企業の当社では、最近従業員を1名採用したところで、会社としては労働契約を締結したいのですが、従業員が一向に締結に応じません。このまま使用するとリスクがあるでしょうか。

A.次の3点に分けて回答申し上げます。
【法的リスク】
1.従業員が労働契約の締結に応じず、会社がそのまま当該従業員を使用した場合、2倍の賃金を支払うことになる法的リスクがある。
『労働契約法』により、企業は従業員の使用を開始した日から1ヶ月以内に従業員と労働契約を締結しなければならないとされています。企業が、従業員の使用開始日から1ヶ月を過ぎて1年未満の期間にわたり、従業員と労働契約を締結しなかった場合、毎月2倍の賃金を支払わなければならないとされています。
2.期間の定めのない労働契約を締結したものとみなされる。
『労働契約法』第14条の規定によれば、企業が従業員の使用開始日から満1年間を経過しても労働契約を締結しない場合、労働者と「期間の定めのない労働契約」を締結したものとみなされるとされています。

【処理の方法】
従業員が労働契約の締結を拒否する場合、会社は従業員が入社して1ヶ月以内に労働契約を終了しなければならない。
『労働契約法実施条例』第5条の規定により、使用者が従業員の使用を開始した日から1ヶ月以内に書面で通知したにもかかわらず、労働者が使用者と労働契約を締結しない場合、使用者より労働者に対し、労働関係を終了する旨を書面で通知しなければなりません。その場合、使用者が労働者に経済補償金を支払う必要はないものの、労働者が実際に勤務した時間分の労働報酬は、法により支給すべきであることが規定されています。
上記の規定により、従業員が労働契約の締結を拒む場合、会社は使用開始日から1ヶ月以内に労働契約を終了することができます。

【留意すべき点】
実務において、従業員が個人的理由(会社の環境を下見に来た。よりよい就職先をまだ探している。労働契約を締結しないことによって2倍の賃金を得ようとしている等)によって企業と労働契約の締結に応じない場合、このような従業員を使用し続けると、会社の労務リスクが増大することになっています。上述の分析に労務コストへの考慮を加味し、会社が新たな採用者と労働契約を締結する際には次の点に留意するとよいでしょう。
(1)従業員が入社してからの経過時間に注意し、必ず従業員の入社後1ヶ月以内に労働契約を締結するようにする。
(2)従業員が労働契約の締結を拒むようであれば、会社は使用開始日から1ヶ月以内に労働契約を終了し、使用し続けることで2倍の賃金を支払ったり、期限の定めのない労働契約を締結することになるリスクを回避する。
(3)労働契約を終了する場合は、事前に専門の弁護士に相談し、サポートを受けながら関連する書面での通知義務を履行し、従業員との労働関係を適法に終了することが望ましい。

作成日:2019年06月25日