現地法人の債権回収に成功した例
1.経緯
・A社は日本のH社が2000年、S市に設立した全額出資子会社であり、設立以来広範に中国国内販売業務を行ってきたA社は、中国の20余りの省市に顧客を有している。
・A社では中国国内販売のルートを切り開いてきたが、これに伴って巨額の不良債権の回収問題を抱えている。2015年1月の時点で、A社帳簿には、期限が到来し未回収の債権が累計5,000万元存在していた。
・日本のH社より弊所弁護士に、債権回収の全体計画の策定、A社の債権回収を全面的な処理へのサポートを依頼した。
2.案件対応の過程
(1)弁護士の見解
・訴訟時効の確保について
『民法総則』の規定により、債権が訴訟時効を過ぎた場合、債権者は勝訴する権利を失うとされています。このため、訴訟時効の確保が非常に重要となります。まず第一に確認すべきことは、それぞれの債権の訴訟時効が満了しているか否か、有力な訴訟時効中断の証拠があるかどうかです。確認の結果に応じて、訴訟時効の中断及びその再計算に関する対応を適切に行うことが必要となります。
・証拠の収集と保全
未回収債権の証拠に不足や瑕疵がある場合は、まず法律上の分析を行い、回収の過程で関連の証拠を補足し、相手方との交渉及び最終的に訴訟という法的手段を取る場合のために、十分な準備をしておく。
(2)弁護士の対応
・債権回収に当たる弁護士チームを立ち上げ、分担・協力体制をとり、全面的な回収業務を展開した。
・未回収債権について詳細に調査、分類。
未回収債権の契約、履行状況、証拠の状況、顧客の存続及び資産・信用状況等について詳しく調査し、調査の結果に基づき、未回収債権を分類。
・分類ごとに、それぞれ債権回収の全体計画を策定。A社と顧客の業務提携関係、顧客の存続、資産・信用の状況、顧客の企業としての性質(国有企業/民間企業等)、未払期間の長短、債権金額の多寡等の要素を総合的に考慮し、全体回収計画を策定する。顧客訪問、弁護士レターやビジネスレターの送付、顧客の上級機関への連絡、訴訟提起又は仲裁の申し立て等、あらゆる方式を講じて債権回収の対応を行った。
・債権回収の具体的な進展に応じて、遅滞なく顧客との協議、総括、回収計画の調整を行った。
3.依頼者の満足ポイント
・2年間にわたり、弁護士チームが積極的かつ持続的に対応したことにより、適法に回収された債権金額は約4,000万元(総債権金額の約80%)に達した。
・案件の収束時には訴訟時効をすでに過ぎており、勝訴しても相手方には執行可能な財産がない等の個別案件について、各当事者との調停に合意を取り付けたことにより、最大限可能な部分の金額を回収することができた。
・現地法人が全権を弁護士に委任し、法的手段の全過程においてコンプライアンス対応を運用したことにより、従業員のコンプライアンス意識が強化された。現地法人の管理職にとっては、以後の債権回収におけるリスク防止と管理においても大変役立つアドバイスとなった。
4.中国での類似の案件における対応の難点とアドバイス
日系企業にとり、中国国内販売における最大の難題は債権回収です。中国のコンプライアンス体系、信用体系の現状は、いまだ完全に整ったものとはいえません。取引双方は業務提携の過程において、契約や取引に関する証拠の保全を十分に重視しないことがあり、このことが債権回収の実践において大きな法的障害をもたらすこととなります。最大限の債権回収を実現するために、弁護士は全面的な調査と分析を行ったうえで、回収の過程では各種の手段やテクニックを利用して有力な証拠を補充していきます。また、会社と長期的な業務提携を行う顧客や会社側の証拠がやや弱い案件においては、さまざまな方法で相手方と交渉して和解を取り付けて回収を実現します。
日系企業で債権回収の対策や日常管理業務を強化し、専門の弁護士への委託により債権回収についてのコンプライアンス研修や指導を実施し、債権回収に関する証拠を保全することをお勧めいたします。適時のモニタリング、回収リスクの判断と、必要な場合には最初から弁護士が参与することで、案件ごとに異なる事情に応じて、有効な債権回収計画を制定・実施して、債権回収を実現することが可能となります。