急な人事処理で異動を不服とした従業員が食堂に座り込み

1.経緯
・青島市の日系企業A社では、ある業務に先進的生産設備を導入したことにより、この業務に従事する人手が余るようになった。社内で検討し、労働組合の意見を仰いだうえで 、A社は当該業務に就いていた6名の従業員を他の業務に従事させる異動を決定した。
・A社は対象となる6名の従業員に対し、担当業務調整の通知を送付した。6名のうち、王氏と趙氏の2名がA社の指示に従うことを拒み、不満が高じて食堂に座り込むようになった。座り込みは3日間続き、会社の管理職が説得を試みたがうまくゆかず、社内に議論が広がり、従業員への悪影響は甚大なものとなった。対処に苦慮したA社は弁護士に相談することにした。

2.案件対応の過程
(1)弁護士の意見
・従業員の担当業務を変更することは、本質的には労働契約の変更にあたり、『労働契約法』第35条により、従業員と協議し合意している必要があると規定されています。ただし、実務における例外的な状況として、使用者による従業員の担当業務調整が、生産経営上の必要によるもので、正当性と合理性を備えており、調整後の従業員の職位クラス、労働報酬、福利待遇が調整前を下回らず、侮辱や懲罰の性質を帯びるものでなければ、使用者は一方的に従業員の担当業務を調整することができ、従業員本人の同意を得る必要はないとされています。
·本件では、A社で先進的生産設備を導入したことにより当該業務において人手が余るようになったのであり、A社が6名の従業員の担当業務を調整したことには、合理性と正当性があり、侮辱や懲罰の性質を帯びるものではないうえ、A社では従業員に対し、業務調整の前後で待遇は変わらないことを約束しているため、A社には従業員の担当業務を調整する権利があるといえます。
・A社に従業員の業務を調整する権利がある状況で、王氏、趙氏はA社による異動の決定に従うべきであり、2名がA社の異動決定を不服として食堂で座り込みをしたことは、就業規則に違反する行為となります。A社には就業規則の関連規定により、王氏、趙氏に対し関連の処分を与える権利があります。
(2)弁護士の対応
·弁護士が王氏、趙氏で面談し、A社で業務調整を行う必要性及び調整の前後で待遇は変わらず、王氏、趙氏に同意してほしい旨を説明。それでも王氏、趙氏が業務調整をなお拒否したため、弁護士よりその場で王氏、趙氏に対する「異動通知書」及び「警告処分通知書」を手渡した。
·弁護士が再度王氏、趙氏と面談したが、2人は再び異動の要求を拒否し、弁護士からも再び「異動通知書」及び「警告処分通知書」を手渡した。
·3度目の面談で、王氏はようやく異動の要求に同意し、ただちに新たな業務に従事するようになったが、趙氏はなおも異動の要求を拒否したため、弁護士から再度「異動通知書」及び「警告処分通知書」を手渡したうえ、趙氏がなお会社の異動要求に応じないようであれば、会社は趙氏との労働契約を解除することを告知した。
·4度目の面談で、趙氏がなお異動の要求に同意しなかったため、A社は就業規則の規定により、労働組合の意見を仰いだうえで、趙氏との労働契約を解除した。
後に趙氏は労働仲裁を申し立て、労働契約の違法解除に対する賠償金10万元の支払いを
A社に求めた。この事案は労働仲裁、訴訟の一審、二審と3段階のプロセスを経て、いずれの審理でもA社が先進的生産設備を導入したことで人手が余り、趙氏の担当業務を調整したことには正当性、合理性があるうえ、侮辱や懲罰の性質を帯びておらず、異動の前後で待遇は変わっていないとして、A社には趙氏の担当業務を調整する権利があることが認められた。趙氏が異動を拒否して食堂での座り込みを行ったうえ、Aからは複数回にわたって「警告処分通知書」を交付していることで、A社には趙氏との労働契約を解除する権利があるとされ、これにより労働仲裁委員会、一審裁判所、二審裁判所の全てが趙氏による仲裁・訴訟の請求を棄却する結果となった。

3.依頼者の満足ポイント
・A社の生産ラインのアップグレード、全体の生産コストの引き下げ、人員整理の目的が実現された。A社で後に実施を予定する大規模な生産モデルの改良とそれに伴う人員整理に、幸先のよいスタートを切ることができた。
・違反行為をした従業員に対し、適法に懲罰を与えて解雇することができ、A社の従業員管理において、従業員の注意を喚起するための好例となった。
・法的手段によって従業員異動の目的を実現することができた。

4.中国での類似の案件における対応の難点とアドバイス
『労働契約法』第35条により、使用者が従業員の担当業務を調整するには、従業員と協議し合意している必要があると規定されています。ただし、実務における例外的な状況として、使用者が生産経営上の必要から、正当かつ合理的に、侮辱や懲罰としてではなく、待遇を変わらず維持するという場合には、使用者には従業員の担当業務を調整する権利を有するとされています。実務において、従業員の担当業務をどう調整するかがこの種の案件においての難点となりますが、使用者が生産経営の理由から従業員の担当業務を調整する場合には、以下のような措置を取ることが可能です。
・まず、異動の必要性について従業員への十分な説明、話し合い、協議を行うとともに、適度なプレッシャーをかけることで従業員の理解と同意を取得し、友好的な方式での解決を目指し、労働紛争の発生を回避する。
・従業員との話し合いが不調に終わった場合、事態がさらに悪化して他の従業員に会社の従業員管理に不利となる印象を与えるのを防ぐため、速やかに会社と法的措置を講じ、法に則って従業員との労働契約を解除する。
・異動を実施する過程では、従業員との面談、従業員への異動決定書、警告書、労働契約解除通知書及び労働組合とのやりとり文書等、関連の証拠を作成、収集しておき、後に万一紛争となった場合の挙証に十分備える必要がある。

案件によって事情は異なり、統一的な処理方式は存在しないため、専門家が具体的状況を踏まえて分析・判断し、必要な対策を検討するとともに、事態の進展に応じてそれを随時調整していくことで、会社の目的を実現することができます。