集団訴訟後の現法合併、勝訴した場合は経済補償金を支払わなくてよいか

1.経緯
・日本企業のM社は、2001年と2005年に、中国青島でともに全額出資の子会社A社とB社を設立し、両社合わせて約200名の従業員規模であった。2017年8月、M社では生産経営上の必要からA社とB社の吸収合併を実施することとし、A社が吸収側として存続し、B社は吸収されて解散・登記抹消することとなった。
・2017年9月中旬、B社がもと所有していた従業員の労働関係を、法に則ってA社に移管することとなった。移管手続きを行う中で、現地労働行政管理機関の手続き上の要求により、B社がまずオンラインの解雇手続きをしてからでないと、B社従業員をA社に移すことはできないとされた。A社ではB社従業員の労働関係を承継し、従業員の社会保険料納付を引き継ぎ、要求に従って関連手続きを行った。
・ところが、従業員の移管手続きが完了した翌日から、もとB社の従業員であった呉氏ら16名の従業員が正当な理由なく無断欠勤するようになり、会社が本人の同意を取得せずにオンライン解雇手続きをしたことを理由に、現地の労働人事紛争仲裁委員会に仲裁を申し立て、B社に労働契約の違法解除に対する賠償金及び経済補償金の支払いを要求した。

2.案件対応の過程
(1)弁護士の見解
『労働契約法』により、使用者に合併が発生した場合、もとの労働契約は引続き有効であり、労働契約はその権利と義務を承継する使用者により履行を継続することが規定されています。吸収合併は使用者の自主経営権行使の範疇に属し、従業員による同意の取得は必要ありません。本件の吸収合併の過程において、従業員の職務、勤務場所及び勤務待遇はいずれも変更されず、従業員の権益が侵害を受けることはありません。B社でオンラインの解雇手続きを行ったのは、あくまでA社で従業員の社会保険料の納付を引き継ぐためであり、吸収合併の過程における特殊な社会保険移転の手続きであり、従業員の権益に実質的な影響を与えるものとなりません。このため、会社は違法な労働契約解除をしたわけではなく、従業員の仲裁請求には何らの法的根拠も、事実的根拠もありません。
(2)弁護士の対応
上記の弁護士の見解に沿って、関連の証拠を収集して整理し、労働仲裁及び訴訟の一審、二審の代理対応を行いました。また終審訴訟で勝訴した後、企業の関連制度改善をサポートしました。従業員との協議、交渉を通じて、従業員と和解し、紛争を徹底的に解決したことで、会社の実質的利益の最大化を実現しました。
①労働仲裁:
労働仲裁委員会は、会社がオンラインの解雇手続きを行った行為は会社が労働契約を解除する行為であり、会社は労働契約を違法に解除したものとして、会社より従業員に労働契約の違法解除の賠償金を支払わせる裁定を下した。労働仲裁は会社側の敗訴となった。
②一審訴訟:
労働仲裁による判断の事実認定及び法律適用にはともに重大な誤りがあると認識し、ただちに会社の代理で一審訴訟を提起した。集団性事件に関わる訴訟の処理ということで、一審裁判所は極めて慎重な姿勢をとり、集団での政府に対する陳情事件が発生することを懸念していた。一審の法定審問の過程において、弁護士より有力な証拠を提示して抗弁を展開した。また法定審問以外にも、複数回にわたって一審裁判所と意思疎通し、自らの法的見解を詳しく説明した。1年間かけて下された一審裁判所の判決では、会社側の意見が完全に採択され、仲裁の裁決が取り消された。
③二審訴訟:
従業員は一審判決を不服とし、二審訴訟を提起した。弁護士が対応し、二審訴訟でも一審判決が維持され、従業員による上訴請求は棄却され、会社側が勝訴した。
④法廷外和解:
終審判決により、従業員は労働契約を引続き履行する必要がある。ただし、会社としても、これらの従業員の雇用を継続していることは望んでいなかった。ここで会社が労働契約を一方的に解除すれば、新たな労働紛争に対応しなければならなくなるうえ、会社には有効な解雇の根拠がなく、違法な労働契約解除に対する賠償金を支払うことにもなりかねない。各種の権益を総合的に考慮した結果、会社と従業員で法廷外和解を行い、従業員に自主退職してもらうことを弁護士より提案した。和解達成のため、弁護士が会社の「就業規則」を作成し、その制定と公布のための法的プロセスを履行した。「就業規則」の規定により、従業員に担当業務に戻って勤務することを要求してプレッシャーを与えた。最終的に、弁護士の立ち会いのもと、会社と法廷外和解に至ったこれら十数名の従業員はその後会社を自主退職したため、会社では経済補償の支払いが一切発生することなく、この紛争を完全に解決することができた。
上記の集団訴訟への強力な対応により、十数名の従業員に経済補償金及び賠償金請求を諦めさせただけでなく、残り100名余りの他の従業員の感情も有効に抑制され、訴訟期間中も他の従業員は正常に勤務したことで、正常な受注生産が確保された。最終的に、会社では経済補償金や賠償金を一切支払うことなく、十数名の従業員を集団退職させ、会社として適法に違法行為のあった人員を整理することができた。

3.依頼者の満足ポイント
・集団訴訟の処理は非常に困難であり、日本企業より即時に弁護士に処理を依頼したが、弁護士による強力な対応で、日本の本社、現地法人両方のニーズが満たされた。
・本社の海外子会社全体戦略統合の目的が実現された。日本の本社より、法的手段を運用した全過程におけるコンプライアンス対応ということで弁護士に全権を委任した結果、海外子会社現地のコンプライアンス意識が高められた。
・整備された「就業規則」ができたことで、以後の会社での他の従業員に対する管理に重要な法的根拠と装備が提供された。これも、日本の本社による海外子会社従業員に対するコンプライアンス管理における重要な一環となる。

4.中国での類似の案件における対応の難点とアドバイス
吸収合併の過程において発生した集団訴訟は、他の従業員にもその事件の存在が知られるため、不適切に対応すれば、さらに広範な集団性事件に発展して会社の正常な生産経営に影響するおそれがあります。また、集団性事件は会社の秩序安定にも影響し、政府機関やメディアに注目されると、企業が外界から非常に大きな圧力を受けることとなります。従業員による集団訴訟への対処においては、労働仲裁委員会や裁判所でも非常に慎重な処理が行われます。
日本企業が直接中国現地の各政府機関との交渉やメディア対応に当たると、会社にとり不利となりがちです。このような事件に対処する場合は、まず専門の中国弁護士に相談し、積極的かつ適法な対応を取ることをお勧めします。