Q: 日系企業の当社では、設立以来、従業員には「住宅手当」を支払うことで住宅積立金の納付に代えていますが、何かリスクがあるでしょうか。今後住宅手当を廃止し、住宅積立金の納付に変更することは可能でしょうか。

A:
1.法律上、住宅手当をもって住宅積立金に代えることはできない

   住宅積立金の納付は、『住宅積立金管理条例』等の法律・法規で明確に規定された使用者が履行すべき強制性の義務であるとされています。法律上、住宅手当を支給してもしなくても、住宅積立金の納付義務履行には影響がなく、つまり、企業が住宅手当を支給したことにより、政府機関が企業に住宅積立金の納付を求めなくなるということはありません。
   具体的なリスクには以下のようなものがあります。
① 従業員により会社の行為を所管政府機関に通報、告発されるリスクがある。
② 所管政府機関より、従業員の住宅積立金の追納や、罰金、延滞金の納付を要求されるリスクがある。
③ 住宅積立金の「ブラックリスト」に登録され、住宅積立金納付に関する信用失墜行為が全国範囲で公示され、合同懲戒を受けるリスクがある。使用者だけでなく、その法定代表者、実質的支配者、董事、監事、高級管理職、関係責任者等も相応の懲戒を受ける可能性がある。

2.住宅手当の廃止は慎重に対応し、民主的プロセスを履行する必要がある
   住宅手当の支給は法律で明確に規定されているわけではありませんが、会社がこれまで従業員に支給し続けてきた住宅手当は、会社の賃金規定や賃金明細表の中にも関連の記述があるはずであり、すなわち住宅手当が従業員に賃金の一部と認識されている可能性があります。このような状況で住宅手当を廃止することは、従業員の切実な利益に関わり、『労働契約法』の規定により、民主的プロセスを履行することが必要となります。
   また、このことはほぼ全ての従業員に関わり、この問題を適切に処理しないと、従業員のストライキ、サボタージュ、集団での所管政府機関への陳情等の集団性事件を引き起こし、会社の正常な生産や信用に影響を及ぼすおそれがあります。集団性事件が発生した場合、社会の秩序や安全を守るため、関係所管政府機関による介入を受けるのが通常です。会社が法通りに住宅積立金を納付していない行為そのものがすでに法律規定への違反となるため、会社が関係政府機関による全面的なコンプライアンス審査を受けることになり、住宅積立金以外のことでも処罰を受ける可能性があります。
   以上の通り、法律規定面、実務の適切な処理の必要性のいずれにおいても、民主的プロセスの十分な履行が必要となります。民主的プロセスの履行には以下の対応が含まれます。
① 各種の事前準備作業(具体案の制定、検討、労働組合及び政府意見の聴取等を含む)
② 説明会の実施、従業員への実施案説明
③ 突発的事件が発生した場合への準備対応
④ 従業員からの質問への回答等

3.特殊期間中における日系企業へのアドバイス
   上述の住宅手当をもって住宅積立金に「代替する」という問題は、現在対応している問題でありながら、実際には過去から残された問題であるといえます。感染対策の特殊期間において、このような問題のために集団性紛争を引き起こすわけにはいきません。企業で尽力してこれを克服し、未整備な部分を改善し、全体的な計画と対応案をしっかりと作成することをお勧めいたします。
   また、民主的プロセスを実行する実務は非常に複雑なものとなるため、豊富な法律知識や専門的な対応テクニックを運用し、従業員への心理的ケア、従業員からの疑問への回答に対応し、最終的に従業員の理解を得てスムーズに進める必要があります。
弊所では、住宅積立金に関する問題への対応及び民主的プロセス等に関し、豊富な経験を蓄積しております。これらに関してお困りのことがある方は、是非相談にご来所ください。