Q: 当社は日系の貿易会社で、顧客の多くを国有企業が占めているのですが、債権回収に時間がかかり、回収にもかなり困難があります。先月突然、顧客の国有企業で組織構成及び人員が変革されたと聞き、回収の済んでいない債権について非常に心配していますが、どのように対応すればよいでしょうか。

A: 多くの外資系企業が、国有企業と業務やりとりをするうえでかなり悩まされ、多くのことが理解しがたく、受け入れがたいものに感じているようです。このためまずは、中国の国有企業の特徴及び意思決定プロセスを理解し、相互の事情を把握することで、目的に合った、よりスムーズな業務やりとりを行うことができるようになります。

◇中国の国有企業の特徴
   国有企業は社会性と企業性の複合体です。その「社会性」は、主に以下3点に体現されています。
1.一定の社会責任を負わなければならない。
2.重大な経営の決定権は全て政府に握られており、企業に残る自主権は実際には完全なものではない。
3.純利益は国家(又は地方政府)のものとなるが、欠損も国家(又は地方政府)により負担される。

◇中国の国有企業の内部意思決定制度
   その内部意思決定制度は外資系企業とは大きく異なっており、要は「三重一大」の決定制度となっています。
   重大な意思決定事項(企業の発展戦略、破産、組織変革、統合再編成、資産調整、財産権譲渡、対外投資、利益配分、機構調整等に関わる重大な意思決定)、重要人事の任免、重大プロジェクトの手配(年間投資計画、重要設備や技術の導入、コモディティ物資購買やサービスの購入、重大建設工事プロジェクト)、さらには高額資金の運用において、いずれも決定前に調査・検討し、論証するプロセスを履行し、十分に各方面の意見を仰ぐ必要があり、これには共産党委員会(党組)との協議やそれらの意見を聞くことも含まれます。意思決定が行われたら、速やかに国有資産監督管理委員会への報告を行い、必要な場合にはその認可を取得しなければなりません。
   上記の特徴及び意思決定プロセスを考慮すると、国有企業との業務やりとりにおいては、まず適法性に注意しなければならないうえ、その意思決定プロセスのために効率的な対応は望みにくいということがあります。

◇回收の対応策
1.組織変革の具体的な類型を理解する
国有企業の組織変革には通常、国有持分の退出、会社制変更、株式制変更及び企業分割、合併、持分譲渡等の類型があります。これについては弁護士を通じ、事前にDDを行うことで把握することができます。
2.組織変革の類型の違いにより、組織変革後の債務負担主体が異なる
国有企業の株主が国有資産監督管理委員会であることにより、その組織変革は一般に行政強制性や政策性を伴うため、債務の負担案にも一定の政策性が表れるものとなります。債権者として、『会社法』等の法律規定により、債務の負担案について知る権利があり、相手方が提供に協力しない場合には、弁護士に交渉を委託することが可能です。
3.債権の管理・回収について習熟する
営業、購買の担当者向けに、規範的な対応ができるような社内特別研修講座を実施することで、従業員に債権の管理や回収についてより習熟させることをお勧めします。

◇日系企業へのアドバイス
   「国有企業」、「未払金」をキーワードにビッグデータを検索すると、1万件にも上る訴訟案件が見つかり、中でも江蘇省、福建省、河南省、広東省ではいずれも1,000件を超えています。特に新型コロナウイルスの感染爆発が起きて以来、国有企業を含む多くの企業が生産経営難に直面し、以後の不良債権の発生率が高まっています。このため、ビッグデータや弁護士による専門的なサポートを活用し、取引先の経営の変化に十分注意するとともに、弁護士レターの送付等を通じて、速やかかつ適法に債権回収を進めることをお勧めいたします。