先般、山東省より新たに改訂された『山東省労働・保障監察条例』(以下『条例』という)が公布され、今年の12月1日よりすでに施行されています。『条例』では改訂前に対し、条文数が37条から大幅に縮減されて23条となりました。①会社が社会保険料を納付していないか全額で納付していない、②会社内部に社会保障制度を設けていない、③従業員賃金を全額で支給していない(残業代の未払い)、及び賃金が最低賃金基準を下回っている、④従業員の法定年次有給休暇、病気休暇等の休暇制度や執行が適法でない、⑤女性従業員の出産期間、授乳期間等の保護規定を履行していない、のいずれかに該当があるものは全て労働機関による監察を受けるとされています。このほか、労働監察の管轄、調査期間にも大きな変更があり、これらの変更は日系企業の生産経営に重要な影響をもたらすものとなるため、今回は変更内容についてご紹介いたします。

◆『条例』の重要変更点
(1)労働監察が使用者所在地の労働監察機関による管轄に改められた
   実務において、労働監察は従業員の権利を守るための重要な手段であり、従業員に会社との紛争が発生した場合、各種の理由により会社所在地の労働監察機関に通報するということはよく行われています。改訂を経た『条例』により、会社の住所地が実際に経営し従業員を使用する場所と一致しない企業について、企業所在地の労働監察機関では今後従業員による通報を処理せず、企業が実際に従業員を使用する所在地の労働監察機関によって管轄されることになりました。

(2)従業員が労働契約の履行過程における紛争により労働監察機関に通報しても、受理されない
   実務では、会社と従業員の間の紛争は多くが労働契約の履行過程で発生することが極めて多くなっています。従業員はさまざまな理由によって使用者を通報し、労働監察機関にこれが受理されると企業の生産経営にとり不利となる影響が生じます。また、労働契約の履行過程における問題は数多く、労働監察機関にとりそれらを正確に調査することにも困難があり、企業の責任が加重される結果となる可能性がありました。ところが改訂された『条例』では、労働契約(労働協約を含む)の履行過程における紛争は労働監察機関の監察範囲に含まれず、そのような紛争解決については労働仲裁機関又は裁判所に訴えるべきであるとされました。

(3)企業が社会保障制度を制定し、適法に従業員の各種社会保険を付保すべきことを明確に規定
   社会保障等の内部規則制度の制定は多くの企業で見落とされやすいうえ、従業員からは社会保険の付保及び保険料納付が特に注視されるため、会社側に社会保険に関してコンプライアンスに反する未納や過少納付があれば、従業員との労働紛争がきわめて引き起こされやすくなります。このため、従業員により労働監察機関への通報や労働仲裁の申立てが行われることのないよう、各日系企業では社会保障に関する内部規則制度の制定及び履行に十分注意する必要があります。

◆日系企業へのアドバイス
   『条例』の改訂・実施により、労働監察機関による監察の内容及び調査期間等が大きく変更されました。各日系企業では従業員との紛争に関わる内容を積極的に把握し、事前に対応マニュアルを作り、労働紛争の発生を極力抑えるようお勧めいたします。必要に応じ、弊所より各社の対応や交渉をサポートさせていただくことも可能です。弊所では今後も日系企業に密接に関わる法律情報を皆様と共有してまいります。