1月11日、中国人民銀行より『信用調査業務管理弁法(意見聴取稿)』(以下「弁法」という)について意見を募集する通知が発表され、パブリックコメントの期限は2021年2月10日までとされています。
   近年、ブロックチェーン、クラウドコンピューティング等、ビッグデータ技術の絶え間ない発展により、企業、個人の信用情報データの収集や利用がより手軽にできるようになったものの、信用調査業務に関する明確な規則がないために、企業、個人の信用情報が随意に収集、濫用される状況を招き、規則の制定・公布が必要となっていました。
   『弁法』は全7章46条からなり、現地日系企業や日本の本社に重大な影響を及ぼす内容も少なからず含まれています。以下では『弁法』のポイントと留意点について簡単にご紹介いたしますので、皆様にご参考いただければと存じます。

◆日系企業に関わるポイントと留意点
1.信用情報の範囲を明確にし、具体的には以下の情報が含まれる

(1)企業や個人の身分、住所、交通、通信、財産、決済・取引、生産経営、法定義務の履行状況(期限内の企業年度報告申告、納税、判決の履行)等の情報そのもの。
(2)上記の情報を分析、評価して得られた情報。例えば、企業の納税状況から査定されるA級、B級といった企業納税信用評価レベル等も信用情報に含まれる。
   各現地日系企業の上記情報は収集、加工、使用される可能性があります。経営管理の過程において自らが情報を適法に開示し、期限通りに法定の義務を履行しているか十分に注意し、信用が損なわれたり、政府機関による監督管理を受けて企業の正常なビジネス活動に影響を受ける事態を回避する必要があります。

2.信用調査機関による国外への信用情報提供に適用する規則、制限を明確に規定
(1)国内の個人の信用情報の照会サービスを国外向けに提供する場合の規則及び制限については、『民法典』、『ネットワーク安全法』及び今後公布される『個人情報保護法』の規定を参照できる。
(2)企業の信用情報の照会サービスを国外向けに提供する場合、以下の条件を全て満たす必要がある。
① 使用者の身分、用途、国内企業の信用情報照会がクロスボーダー貿易や融資等の合理的用途のためかどうかについての審査を受ける。
② 案件ごとの照会方式を採用して提供する、すなわち1件の照会につき中国国内企業1社の信用情報を提供する。
③ 信用調査機関より中国人民銀行の省都レベル市中心支店以上の支店に届出を行っている。

留意点
(1)現地駐在員については、その宗教の信仰、遺伝子、指紋、血液、疾病等に関するプライバシー情報は信用情報に含まれず、信用調査により収集されるべきではないと思われます。具体的には『弁法』が正式に公布された後で、弊所より中国人民銀行等の所管機関と確認したうえで皆様にお知らせいたします。
(2)本社にとっては、中国国内企業とのクロスボーダー貿易等のビジネス活動を計画する場合、中国の信用調査機関に対象の国内企業の信用情報を照会することができますが、1件につき特定の企業についてしか照会できず、業界、区域を対象としてその範囲内の企業に対する量的照会を行うことはできません。

◆日系企業へのアドバイス
   『弁法』に関するパブリックコメントが行われたことは、中国政府が法令レベルから、企業、個人の信用情報がみだりに収集、濫用されている現状に対する規制や監督管理を行い、情報の提供者、信用調査機関、情報の利用者に適法な企業信用情報の収集、整理、提供、使用をさせるべく取り組んでいることを反映しています。また、『弁法』には『民法典』、『ネットワーク安全法』、『個人情報保護法(草案)』等の法規の内容が少なからず反映され、個人情報の保護が強化されています。
   『弁法』は今年中に審議で可決される可能性があり、現地日系企業及び本社にて十分注目し、速やかに関連の情報を入手して対応策を講じられるとよいでしょう。また、各企業はビジネス活動の中で取引先の信用情報を照会し、それに基づいて取引における判断を行うことができます。
   このほか、『弁法』には現地日系企業及び本社に重大な影響を及ぼすその他の内容も含まれています。各企業の留意事項及び対応策については自身の経営状況、信用状況の相違により異なるため、具体的には企業別の状況と、多方面への調査、分析を踏まえたうえで、現地企業や本社の目的に合った対応策を講じることとなります。弊所にご要望いただけば、喜んで現地企業や本社の対応検討にご協力させていただきます。