現地企業でこれまでの経営上の違法行為が存在すれば、監督管理を行う機関から処罰を受けるリスクがあり、場合によっては罰金や操業停止等の経済損失をもたらすだけでなく、会社の名誉に傷が付き、企業のビジネス活動が制限を受ける結果ともなりえます。例えば、未認可プロジェクトの建設着工、販売事実に合わない広告宣伝、税関監督管理貨物の無断処理といった違法行為が企業に存在すれば、環境保護、工商、税関等、企業各監督機関から処罰を受けるリスクも否めません。
   行政罰に関する法律内容は多岐に及んでおり、関係する分野が広範にわたることから、わずかな不注意から処罰を受けることもあるため、日系企業の責任者は、違法行為の有無を早期に確認することが必要です。ただ、現在のコロナ禍では本社の目配りが従前よりも行き届きにくくなっているのが実情で、弊所の実践経験から、以下の留意点を共有いたしますので、ご参考いただければ幸いです。

1.法律・法規に対する習熟と研修の実施
   企業の責任者だけでなく、一般の従業員も経営に関わる法律について習熟し、企業に対する要求や責任、違反した時の影響について知っておくことが大切です。会社で定期的に研修を実施し、従業員全体のコンプライアンス意識を高めるとよいでしょう。
2.通報体制の利用
   法規違反の通報窓口として、報告受付専用の信書、電子メール等の連絡ルートを設け、リスクの存在をできるだけ早く認知できる体制を整える。違反事項の可能性があれば、ただちに専任者が対応できる体制を取っておくことで、関連行為の早期是正につながります。
3.法務デューディリジェンス(DD)の実施
   企業の経営過程では、業務が繁忙であるために違法行為に対する予防措置が疎かになってしまうこともあります。このような場合、現地の法律または財務の専門家に依頼して詳細なDDを行うことによって、速やかに改善点を見出し、現地目線での迅速な対応につながります。DDの実施には、通常それほど多くの費用や時間がかからないため、特に、国籍を問わず重要職の責任者が交替する際などは、法務DDを行って法的リスクの調査および予防措置を取ることで、企業の健全な運営に役立てることができます。
4.政府機関との交渉
   行政機関から処罰の決定を受けた際、複雑な中国の政策法律への知識不足や、政府機関とのコミュニケーションを得意としない日系企業においては、迅速な対応ができないことがあります。日本においては政府機関との交渉が必要な場面はそれほど多くないですが、中国においては政府機関との交渉が重要な鍵を握ります。まずは行政罰機関と交渉し、処罰の明確な根拠を開示してもらい、会社の状況説明書を提出する等の対応が重要となります。政府機関ではビジネス環境の改善に対する意識が高まっている昨今、担当職員の政策に対する認識を正確に把握し、積極的な手段を講じて交渉することで、企業への影響を最小限にとどめることが期待できます。

◆日系企業へのアドバイス
   どの企業においても、違法行為の潜在リスクは大きく、懸念はあるものの、覚知しにくい問題があるため、一定の警戒心をもって普段から調査・分析を行い、予防措置を取ることが重要です。万一、経営上の違法行為があった場合には、政府との交渉ができる十分な証拠が必要となります。さらに、最近では7月15日から「行政処罰法」が施行されるため、これらの法律にも留意しながら、健全な経営を目指しましょう。