今年8月7日、中国のEコマース大手のアリババで女性従業員が出張中に顧客接待中に飲酒を強要されてわいせつ行為を受けたうえ、無断でスペアのルームキーを作った上司に暴行されたことをネット上で暴露して広く社会に注目されました。この事件には中央規律検査委員会、人民日報も珍しく声を上げ、アリババを名指しで批判しました。その後アリババの高級管理職責任を取って退職し、加害者となった男性従業員は解雇されたうえ、警察に行政15日間拘留の行政罰を受けました。この事件以来、いかにしてセクハラを予防し制止するかという問題に、再び社会の関心が高まっています。

1.『民法典』に規定されている使用者のセクハラ予防・制止の義務
   職場でのセクハラについて、2021年1月1日から施行されている『民法典』の第1010条で、明確に規定されています。この規定により、会社は使用者として合理的な措置を取って予防、苦情の受理、調査対応等の措置を講じ、職権や上下関係等を利用したセクハラを防止・制止しなければならないとされています。会社がセクハラ防止の措置を取らなかったり、セクハラの発生後速やかに対処せず、従業員が自己の権益を保護するために通報、ネットでの暴露等といった手段を取った場合、会社に極めて大きな影響が及び、社会問題に発展すれば、企業は公衆からの非難の的となり、政府からも指摘を受けることとなります。反対に、企業が法的義務を履行したことを抗弁できれば、法的責任の負担が免れたり軽くなることもあります。
   本件において、アリババが女性従業員の告発に対し速やかに対応しなかったために、ほかに方法がなくなった彼女はネットに訴えるしかなくなり、アリババは世間の非難を浴びて重大な企業の危機に直面する結果となりました。

2.セクハラ防止の社内対策
   事件が発生しても、アリババは明らかに『民法典』に規定されている速やかな調査対応の義務を履行していませんでした。被害者の女性は上司に訴えても取り合ってもらえず、食堂で抗議活動を試みても追い出され、高級管理職や関係者からも処理を先延ばしにしたりメッセージを無視する等、アリババの本件に対する対応にはいずれも不備があり、会社の組織管理上の体系的な欠陥と女性従業員の権益を保護する体制にも不足があったことが露呈しました。最終的に女性従業員がやむを得ずネットに暴露するという手段を取ると、会社は社会全体から怒りを買うことになりました。もし、アリババが事件後ただちに対応していれば、これほどの影響がもたらされることはなかったはずです。
   この事件が社会的に注目されたことでアリババは事態を認識し、関係者に対する果断な処分置を取るとともに、以下のようなセクハラ防止の制度を設け、会社への影響をある程度挽回しました。
(1)グループの就業環境委員会を設置し、セクハラ防止を含む就業環境に関する問題に責任を負う処理決定機構とした。
(2)「ALI-WE」という悪習慣撲滅チームを立ち上げ、酒の席での悪習、低俗な冗談等、仕事上で不愉快にさせるような業務方式についてセルフチェックのうえ是正するようにした。
(3)特別研修システムを構築し、定期的にセクハラ防止、自己防護のための従業員研修を行うようにした。

◆セクハラ防止、制止についてアリババ事件に学ぶこと
   コロナ下において日本人が中国現地に渡航しにくい状況のもと、コンプライアンスを重んじる日系企業では、会社の監事からもコンプライアンスを重視すべき問題が相次いで数多く指摘されています。従業員へのコンプライアンス研修は企業コンプライアンスの重要な取組みであり、研修を通じて従業員に日常業務における注意すべき問題について知ってもらうことができます。
   現在、電力制限政策により、空き時間が増えているところがあるかもしれませんが、この時間を活用して従業員へのコンプライアンス研修を行う企業も少なくありません。弊所では、日本本社からのご依頼を受け、中国籍の中・高級管理職や中堅従業員向けに、職務横領防止、商業賄賂防止、セクハラ防止等の社内管理・コンプライアンスをテーマとする研修をご提供し、生産活動に支障のない範囲で、従業員のコンプライアンス意識を高めることができ、大変好評をいただいております。ご要望の現地企業があれば、随時ご連絡をお待ちしております。