中国における日系現地企業の発展において、事業の拡大・縮小などの企業再編に直面することは多くあります。その中で、労働契約の変更または解除、一部従業員の業務内容や勤務場所の調整などをはじめとする労務問題を避けて通ることはできません。
以下、分公司の閉鎖に関わる労務問題について解説いたします。
(1)経済補償金案の確定
『労働契約法』の規定により、分公司の閉鎖に伴い従業員との労働契約を終了することが必要となり、従業員の勤続年数及び直前12ヶ月間の月平均賃金に基づき法定経済補償金(N)を計算することになります。
ただし、実務において従業員と労働契約終了の交渉を行う際に、社会保険料や住宅積立金の納付基数が法定基準に達していない、残業代や高温手当が法定基準通りに支払われていない等といった、会社の過去の経営過程において存在した不適法問題を従業員側から指摘されることがしばしばあります。
このため、分公司閉鎖を実行する前にはデューディリジェンス(事前調査)を弁護士に委託し、分公司の適法性状況を細かくチェックし、総合的に検討したうえで「N+α」の基準で従業員との労働契約終了交渉を行うようお勧めいたします。
(2)労働組合等への通知の手続き
従業員との労働関係をスムーズに終了させるために、労働関係の終了を従業員に告知する前に、人力資源社会保障局や労働組合と意思疎通して理解と指示を取り付けておくという実務対応を行うことが多く、このようにして労働組合への事前の通知がなかったとして従業員から人力資源社会保障局や上級機関に通報され、労働契約終了が阻害される事態を回避することができます。
人力資源社会保障局、労働組合との交渉には弁護士が全過程に付き添うようにし、書面の記録や録音データを残しておけば、後に労働仲裁や訴訟となった場合に最も有効な証拠となります。
◆日系企業へのアドバイス
同じ案件であっても、異なる地方では裁判所の判決も異なる可能性があります。現地企業で中国各地の支社を閉鎖するにあたっては、労働契約を一方的に終了してしまえばよいと簡単に考えるのではなく、事前に弁護士に委託して各地の裁判所による判例を調べるようお勧めいたします。
支社の閉鎖以外に、企業再編の過程において従業員との労働契約を解除する場合にも、従業員とどのように交渉し、経済補償金を支払うかという問題が生じます。労働仲裁や訴訟等の紛争発生を回避しながらいかにして従業員と交渉するかや、従業員から早期契約解除で合意するための経済補償金案の設定には、いずれも対応テクニックが必要となります。企業再編の過程における労務問題は、専門性、対応難度ともに高いものとなるため、事前に弁護士にご相談いただくようお勧めいたします。