中国ビジネスの実務において、区域産業計画調整、道路計画調整など、政府の計画調整によって企業が移転を強いられるケースも少なくありません。こうした場合の対応や移転補償などについて、多くのお問い合わせをいただいておりますので、今回は政府による移転費用の補償について簡単に紹介しますます。

(1)一般政府補償プログラムとは?
   『国有地上住宅収用及び補償条例』第17条及び地方の実施規則によると、政府が企業に移転を強いる場合、企業は一般的に以下の項目について補償を受けることができます。
①土地補償
②建物(構築物)補償
③移転による機械設備損害賠償
④生産損失及び営業停止補償
⑤機械設備の撤去、運搬、設置、その他移設費用補償

   上記の補償項目に加えて、移転に追随する従業員への補償や移転インセンティブ費用などに関しても、政府と交渉の余地があります。具体的な補償については、企業所在地の政策方針、企業の土地(国有地・集合地)の性質、工場建物が所有か借地か、不動産権利証があるか、移転によって企業が受ける影響など、さまざまな要因を総合的に分析・判断する必要があります。

(2)不動産鑑定機関の重要な役割
   『国有地上住宅収用及び補償条例』第 19 条によると、政府が企業に移転を強いる場合、不動産鑑定機関は事前に移転企業に対する補償を評価しなければならないと規定されています。不動産鑑定機関は、被収用者(移転事業者)により選定されるべきと法律で定められていますが、この点は実務上、見過ごされがちです。
   企業が選定した鑑定機関と、政府が選定した鑑定機関が選定した企業の移転損失の評価額には一定の差が生じる可能性があります。したがって、事前に鑑定機関を選定し、移転に対する補償額を見積もっておくことが非常に重要です。

(3)政府や家主と交渉する際に企業が注意すべきことは?
   地域によって補償基準が異なる場合があるので、ケースごとに補償額の違いがあります。したがって、企業は、自社の実況と地域の移転補償政策の実施状況に応じて、企業の売上高、利益、顧客の注文状況、移転が企業に与える影響、および従業員の状況を総合的に把握する必要があります。また、関連資料(財務諸表、利益計算書、顧客からの発注契約、移転する新しい場所、従業員の移転の意向など)を準備し、理由を添えて政府または家主と交渉し、最大限の移転補償を得られるよう努力することも重要です。

◆日系企業へのアドバイス
   中国では、政府の移転に関わる利害関係者が多く、移転や補償計画をめぐって日系企業が地主や政府部門との紛争に巻き込まれることは容易に想定できます。また、地主や政府との交渉において、日系企業は文化や法律、言語の面で弱い立場に追い込まれかねません。このため、事前に弁護士と案件を分析し、適切な鑑定機関を選定して損害賠償額を見積もるとともに、全体戦略を策定し、中国の商習慣に基づいた粘り強い交渉で利益を最大化するよう、努めることが大切です。