近年、デジタル経済、電子商取引プラットフォームは急速に台頭していますが、一部の大手企業がプラットフォームと資本の優位性を利用して独占的行為を行うことがあり、独占禁止法の執行と民事紛争の審理は新たな難題に直面しています。実務上新たな問題を解決し、改正された「独占禁止法」に適応するため、最高人民法院は11月18日、「独占禁止法民事紛争案件のいくつかの審理問題に適用する最高人民法院の規定(意見の公募)」(以下「規定」と略称)を公布し、12月9日まで意見を公募(パブリックコメント)しました。
   2012年に発表された「独占禁止法民事紛争案件のいくつかの審理問題に適用する最高人民法院の規定」に比べ、本「規定」の条文数は16条から52条へと大幅に増加し、日系企業の生産・経営に重大な影響を与えるものです。今回、弊所は日系企業各社の皆様へのご参考として、以下の通り要点をご紹介いたします。

1.中国が国外の独占的行為に対して持つロング・アーム管轄権
   国外の親会社AとBが製品販売価格協定を締結たことで、Bの中国国内子会社C及び市場の他の会社の販売量が大幅に減少した場合、中国国内子会社C又は他の会社はAを提訴できるでしょうか。また中国の裁判所には裁判管轄権があるでしょうか。
   従来の独占禁止法はこの問題に関し明確に規定しており、すなわち中国国外の独占行為が、中国国内の市場競争に対して競争を排除もしくは制限する影響を与えた場合、独占禁止法が適用されます。
   本「規定」では、中国の裁判所の域外管轄権をより明確にし、国外の独占的行為が国内市場に競争を排除もしくは制限する影響を与え、当事者が独占禁止法に基づき「中国国内に住所がない」被告を提訴した場合は、中国国内市場が直接実質的な影響を受けた結果発生地点の裁判所が管轄し、影響結果の発生地点を特定できない場合は、紛争の存在と妥当な関連のある地点または原告の住所地の裁判所が管轄するとしています。(「規定」第7条)

2.縦型独占合意の立証責任を細分化
   一部の日系企業は経営の過程で、その価格体系を維持するため、販売代理店や取引相手と取引の際に「再販価格を固定する」、「最低再販価格を制限する」などの一定の取引条件を設定することがありますが、これは縦型独占的行為の構築を疑われる可能性があります。
   価格の縦型独占合意は、原則として違法と推定され、原告は縦型の価格制限が存在する事実を証明すれば立証責任を果たすことができ、被告は競争を排除もしくは制限する効力がないという観点から合理的な抗弁を行うことができます。(「規定」第25条)

3. 限定取引行為が競争を排除または制限する効果があるかを認定するための参考要素や正当な抗弁理由を列挙
   日系企業が技術、製品力、知的財産権などに基づき市場支配的な地位を持つことや、代理店や取引相手との取引過程で、その販売代理店システム、物流システムなどを維持するために、取引を制限したり、限定した経営者としか取引できないケースは珍しくなく、一部の企業は市場支配的地位を濫用する独占的行為を構成すると認定され、処罰される可能性があります。
   本「規定」は、限定取引行為に競争を排除もしくは制限する効果があるかどうかを認定するための参考要素及び正当な抗弁理由を以下のように例示しています。
(1)取引の相手方と消費者の利益を保護するために必要であること
(2)製品の安全上の要求事項を満たすために必要であること
(3)知的財産権またはデータセキュリティを保護するために必要であること
(4)取引を進める上での特定の投入を保護するために必要であること
(5)インターネットプラットフォームの合理的なビジネスモデルを維持するために必要であること
(6)インターネットプラットフォーム全体に悪影響を及ぼす不当行為を防止するために必要であること
(7)その他、行為に正当性があることを証明できる理由
   日系企業各社の限定取引行為が市場支配的地位の濫用を構成するとの疑いが指摘された場合、これらの理由を活用して抗弁し、行政処罰及び金銭的損失を免除もしくは軽減することができます。(「規定」第40条)

◆日系企業へのアドバイス
   本「規定」は現時点では意見公募段階にあり、正式な法的効力はありませんが、「独占禁止法」における関連市場の認定、独占的協定と市場支配地位の濫用の認定基準、及びインターネットプラットフォームの行為規制の内容を細分化しており、日系企業の権利擁護、及び訴訟対応の実務的なガイドラインとして活用することができます。各日系企業は、企業がこれらの規則を活用して自社の権利を保護し、独占のリスクを回避するため、最高裁や政府部門の最新の動きをタイムリーに注視する必要があります。
   また、日系企業の中国でのインターネットや電子商取引プラットフォームを通じた経営活動はすでに一般的であるため、デジタル経済分野の独占禁止法上のコンプライアンス問題をより重視する必要があるといえます。