2023年6月25日、国家市場監督管理総局は、『知的財産権の濫用による競争の排除・制限行為の禁止規定』(以下「新規定」と略)を公布し、8月1日より正式に実施されます。
   『知的財産権の濫用による競争の排除・制限行為の禁止に関する規定(2020改正)』(以下「原規定」と略)改正施行の際と比較して、新規定は改正された内容がより多く、その条項の数は19条から33条にボリュームアップされ、知的財産権分野の独占行為に対する規制が一層強化されています。そこで今回は、新規定の注目ポイントについて簡単に紹介いたします。

1.知的財産権分野における「ハブアンドスポーク型合意」条項の追加
   2022年に新改正された『独占禁止法』の第19条では、この「ハブアンドスポーク型合意」の禁止という概念が取り入れられ、他の事業者の独占合意を組織したり支援したりする行為そのものが禁止されましたが、新規定ではこの禁止事項が、知的財産権を利用した独占合意の実施行為にも適用されることになります。(第6条)
   実務では、知的財産権を持つ企業が他の企業に知的財産権の使用を許可または授権する際に、それに関連する授権条項や川上・川下の企業との意思の連絡などの行為が、被授権者を組織した独占的な合意の達成に当たるか、または実質的な支援の提供に該当する可能性があるかどうかが判断されることになるため、知的財産権を扱う企業は特に留意が必要です。

2.市場支配地位の認定において新たに追加された考慮要素
   新規定には、知的財産権を有する事業者が、関連する市場において支配的な地位を有するか否かを判断する際に考慮される、新たな要素が列挙されています。(第8条第3項)
①取引相手が代替関係にある技術や製品に転換する可能性とその移転コスト。
②知的財産権を利用して提供される商品に対する川下市場の依存度。
③取引相手の事業者に対する牽制能力など。
   これらが追加されたことは、事業者が知的財産権を持っていることだけを基準に、その関連する市場において支配的な地位にあると判断することはできない、ということを意味しています。

3.知的財産権行使の「正当な理由」
   表面的には独占行為に見える状況が、実際には知的財産権の保護を目的としているというケースも存在します。そこで新規定は、知的財産権の行使に「正当な理由」がある場合についても新たに規定しており、その「正当な理由」の認定基準についても列挙しました。(第20条)
①イノベーションを奨励し、市場の公平な競争を促進するのに役立つ。
②知的財産権の行使または保護のために必要。
③製品の安全、技術的効果、製品性能などを満たすために必要。
④取引先の実際のニーズに合致し、合法的な業界の慣行や取引習慣に沿っているなど。
   実務において、法執行機関による調査を受ける際には、上記の「正当な理由」をベースとし、企業による抗弁や説明を行うことができます。

◆日系企業へのアドバイス
   新規定の施行後、国家及び省レベルの独占禁止法執行機関が知的財産権分野における独占的行為に対する取り締まりを強化する可能性があるため、日本企業各社は、この分野における独占禁止法執行の動向及び政策に一層注目することが求められています。
   また、各企業における生産経営の過程において、知的財産権の使用、許可に対する独占禁止コンプライアンス意識を強化し、知的財産権を行使する過程に存在する独占禁止関連のリスクを軽減しなくてはなりません。実際にこの種の問題に直面した場合は、自らの正当な権利・利益を保護するためにも、現地弁護士と速やかに対応策を協議し、政府当局と十分な意思疎通・交渉を進めることができるでしょう。