企業と従業員が共に注目し、社会的にも常に重視されているもの、それは私たちが得ている賃金、すなわち給料です。北京市人力資源・社会保障局は2023年7月11日、『北京市2023年最低賃金基準の調整に関する通知』(以下『通知』と略称する)により北京地区の企業従業員の最低賃金基準の調整を発表し、その最新基準は2023年9月1日から正式に施行されることになっています。今回は、各企業様及び人事総務でご参考いただけるよう、実務に役立つポイントについてご紹介いたします。

1.最新の最低賃金基準
   北京市では、以下のように異なる労働時間制と賃金制度に基づき、3パターンに分けて新たな最低賃金基準を確定しました。(第1条、第2条、第3条)
(1)全日制労働者(正社員):13.91元/時間、2,420元/月
(2)非全日制労働者(パートやアルバイトなど):平日及び普通休日26.4元/時間、法定休日
62元/時間。
(3)出来高賃金:企業と労働者が平等に協議し、労働ノルマと出来高単価を確定する。
   上記(3)の出来高賃金の設定においては、労働者が法定労働時間内に正常に労働を提供する場合、その賃金が上記(1)の最低賃金基準を下回ってはならないとしています。つまりこれは、労働者が正常に労働を提供していない場合、支給される賃金が最低賃金基準を下回ってもよいということを意味します。

2.最低賃金基準導入時に留意すべきポイント
   企業側が労働者に支払った賃金から下記に挙げられている項目を差し引いた後の賃金額が最低賃金基準を下回ってしまうと、企業側は賃金の再支給や賠償金の支払いといったリスクに直面することになります。(第1条)
①夜勤手当、高温手当、坑内や有毒有害環境など特殊な作業環境条件下による手当。
②時間外労働賃金、割増賃金。
③労働者個人が納付すべき各種社会保険料及び住宅積立金等。
   つまり、上記の項目は最低賃金の構成範囲に属していない、企業側が別途支払うべき項目である、ということを覚えておく必要があります。
   ただし、非全日制労働者の場合は、最低賃金基準の構成範囲に企業や労働者個人が支払うべき養老、医療、失業保険が含まれているという点に注意してください。(第2条)

◆日系企業へのアドバイス
   最低賃金基準が確定しているとはいえ、いかなる状況下でも企業側が最低賃金基準を下回る賃金を労働者に支払ってはならないということではありません。従業員が病気休暇を取ったり、事情で仕事を休んだ場合などは、企業が支払う賃金がどうしても最低賃金基準を下回ってしまうこともあり得ます。
   またこれは北京地区が通知した規定であり、実務上では各地区によって最低賃金基準額や、五保険一積立金の費用を含むかなどについては規定が異なる可能性があります。そのため、各日系企業は企業所在地における最低賃金基準関連の規定にタイムリーに注目し、法規定に則って従業員の賃金を調整することができます。企業側は従業員の給料設定を高くも低くもできますが、それには一定の実務スキルが求められます。従業員及び労働組合との協議などの重要なプロセスを履行し、コンプライアンスの不適合に起因する労働争議の防止を常に心がけましょう。