2023年9月1日、第14期全国人民代表大会常務委員会第5回会議において、『治安管理処罰法(改正草案)』(以下『改正草案』と略)が初めて審議され、9月30日までの間、公表した『改正草案』に対するパブリックコメントを求めました。
   この『改正草案』の一部内容には、中国の日系企業及びその駐在員の皆様の業務や生活に大きな影響を与えるものもあることから、今回はこの最新『改正草案』の内容について、以下にポイント解説いたします。

1.「殴り合いのけんか」は和解後も処罰されない場合がある
   今回の『改正草案』では、民間で起こった殴り合いのけんか、または他人の財物を毀損する行為など、治安管理上において情状が軽微な違反については、当事者同士が進んで和解するか、人民調停委員会の調停を経て協議の合意に達し、それを履行した者は、公安機関に対して不処罰を書面申請できると規定されています。 (第9条)
   ただし、公安機関からの承認がないと不処罰の申請はできないため、当事者が和解する、または合意したことを履行しさえすれば、決して処罰を受けないという意味ではないという点に留意する必要があります。

2.民族感情を損なう恐れがある服装が治安管理処罰対象となる可能性
   今回の『改正草案』の中で、中華民族の精神、感情を損なう服装の着用や言論の発表・流布が治安管理処罰の範囲に入るとされました。この内容は、公共の場所で中華民族の精神、感情を損なう服装、または標示がある物を着用、中華民族の精神、感情を損なう物品や言論を作成または拡散した場合、5日~10日の拘留、または1,000元~3,000元の罰金を科される可能性があることを意味します。また情状が重い場合、最高で15日以下の拘留と5,000元以下の罰金を科すとしています。 (第34条)
   この条項については、何を以って「中華民族の精神、中華民族の感情を損なう」とするのか、その概念の範囲があまりはっきりしていないことから、実務上における論争がとても大きくなっています。行政権利による法執行が主観的、また恣意的に実施される恐れがあることからも、こうした行為を治安管理規制の範囲に組み入れることになるかどうかについては、かなりの不確実性があるといえます。

◆日系企業及び駐在員の皆様へのアドバイス
   今回の『改正草案』では、上記以外にも、ドローンの規定に違反する使用、火を点けた孔明ランタンを飛ばすこと、高所からの放物、盗聴撮影機材の違法な使用、個人情報の不正入手、社会生活上の騒音・汚染の放出など、さまざまな行為を治安管理の規制範囲に組み入れています。
   当該『改正草案』の内容は、中国の現地駐在員の業務や生活と密接に関係しており、この『改正草案』内容に対する十分な理解の不足や、関連法規自体を知らないことで処罰を受けないよう、注意する必要があります。日々の業務や生活のあらゆるシチュエーションに関わるこれらの法規制に関するご質問がございましたら、弊所へお気軽にご相談いただければ、皆様と共に具体的な対応方法を検討・分析させていただくことができます。