これまでの記事では、企業において従業員を異動する際、従業員の同意は必ずしも必要ではないという点を取り上げてきました。実際、法律規定に合致していれば、企業側が一方的に従業員を異動することに何ら問題はありません。
   しかし実務上では、会社と従業員という立場のギャップや、法律への理解がすれ違っていることにより、従業員の異動が引き金となる労働争議がしばしば発生しており、従業員の異動は現地企業にとっての大きな悩みのタネとなっているのも事実です。では、どのような場合に企業は従業員の職位ポジションの配置を一方的に調整してもよいのでしょうか。今回はそのポイントについてご紹介いたします。

◆企業が合法的に従業員を異動できる状況
1. 従業員が職位の業務に堪えることができない場合の異動
   『労働契約法』第40条第2項の規定によると、従業員が業務に堪えることができない場合、企業側は従業員の研修を手配し、職位ポジションを調整する権利を有します。
   ただし、職位説明書、目標責任書、及び考課結果など、会社側が確実かつ十分な証拠を提出し従業員が業務に堪えることができないことを証明する必要があり、その根拠が十分である場合に職位を調整することができる、という点に留意しなければなりません。
2. 医療期間満了後に元の業務に従事できない場合の異動
   『労働契約法』第40条第1項の規定を根拠に、従業員が病気にかかり、業務以外で負傷し、所定の医療期間が満了した後も元の業務に従事できない場合は、雇用者側が別途業務ポジションを手配してもよいことになっています。
3. 客観的状況に重大な変化があった場合の異動
   『労働契約法』第40条第3項の規定に基づく合法的な異動には、企業が生産転換、重大な技術革新、または生産経営方式の調整による経済的リストラに至る前に、一部の職種や製品生産のポジションが取り消され、他の新たな職種やポジションに取って代わったことによる一方的な労働契約の変更、若しくはポジション変更が含まれます。

◆日系企業の皆様へのアドバイス
   実務上では、企業が従業員の異動を実施するにあたり、もし従業員との協議による合意を達成できるのであれば、協議による方式を優先的に選択して異動を進めることが推奨されています。企業が一方的に異動を実施できる法的根拠がある状況があり、企業側が勝手に一方的な従業員の職位調整を決定したことで、事実上労働争議事件に発展したケースは少なくありません。そのため、日本の本社及び現地の日系企業は、事前に対応処理スキームや、履行のプロセス、及び関連証拠を収集、固めたりする方法などを現地弁護士と共に検討することにより、労働争議の発生を未然に防ぐことができるでしょう。