有限会社にとって、原則として会社は会社の債務に対してその所有資産をもって独立して責任を負い、株主は会社債務に対してその出資額を限度として有限責任を負います。しかし、株主が会社の独立した法人格と有限責任を濫用し、悪意を持って債務を回避しようとする場合、株主は会社の債務に対して無限連帯責任を負うよう要求される可能性があります(すなわち垂直的な法人格否認)。
   今回新たに改正された会社法では、上記の垂直的な法人格否認に加え、株主が支配する子会社(支社)同士が連帯責任を負う制度(水平的な法人格否認)が新たに追加されました。今回、弊事務所はこの水平的な法人格否認制度について簡単に以下にご紹介し、各日系企業のご参考に供します。

1.株主が支配する会社間の債務負担
   実務上、とりわけ企業グループにおいては、株主が複数の子会社を支配し、資金や人員を複数の子会社間で移動させ、悪意を持って一社または複数の会社の債務を回避し、債権者の利益を損なう可能性があります。債権者の利益を保護するため、上記のような状況が発生した場合、新会社法では株主が支配する子会社間で相互の債務に対して無限連帯責任を負うことを規定しています(新会社法第23条)。
   会社の株主や関連会社の間で会社の独立した人格や株主の有限責任を濫用して債務を回避する悪意がない場合には、その株主や株主が支配する子会社は無限連帯責任を負う必要はないことに注意する必要があります。

2.株主または株主が支配する会社が連帯責任を負う場合
   最高人民法院が発表した九民会議の議事録を参考にすると、実務では通常以下の3つの類型の状況で、株主や株主が支配する子会社間で相互に責任を負う可能性があります。
(1)法人格混同、最も主要なのは会社の財産と株主または株主が支配する他の子会社の財産とを混同し区別できないことであり、同時に、業務または人員の混同がある状況の可能性があります。例として、株主が会社の資産を用いて自己の債務を返済したり、財務記録を行わずに関連会社提供したりするなど。
(2)会社持株株主の会社に対する過度な支配とコントロール、例えば:①親会社と子会社、また同一の株主が支配する子会社の間の利益供与、②親子会社や同じ株主が支配する子会社の間で相互に取引し、収益は一方に帰属させるが、損失は他方が負担するなど。
(3)会社の資本が明らかに不足しており、株主が少ない資本をもって能力以上の事業を行い、そのリスクを債権者に転嫁する場合。
   実務上では、会社と株主や株主が支配する他の子会社との間で業務や資金のやり取りを行う場合、事実に即した財務記録を行うことで、連帯責任を相互に負うリスクがある程度軽減される可能性があります。
   上記のいずれかの状況が発生すると、必然的に株主や株主が支配する子会社が連帯責任を負うことになるわけではなく、具体的な状況に基づいて総合的に分析・検討する必要があることに留意が必要です。

◆日系企業への提言
   今回の新会社法で新たに追加された水平的な法人格否認制度は、中国に複数の子会社がある日本本社や現地日系企業にとって、責任を負うリスクを高めるものと言えます。
そのため、各日系企業は実務経験のある弁護士とコミュニケーションを図り、最新の法律規定や実務での応用を理解する必要があります。
   会社と株主または株主が支配する他の子会社との間に法人格の混同や関連取引がある場合、いかにして法に則した業務、資金、人員の往来を行い、株主が会社債務や株主が支配する子会社に対する連帯責任を負うことを防ぐかは、日系企業各社が検討すべき重要な課題の一つとなるでしょう。