Q: 日系企業の当社では、一部の従業員の年次有給休暇が申請されずに、未消化のまま年末を迎えることを懸念していますが、どのように対処すればよいでしょうか。

A: 毎年年末になると、多くの企業で従業員の未消化の年次有給休暇への対応への悩みが発生します。年次有給休暇は、多くの企業で実務において、「従業員による申請 → 会社承認」という手順で取得されるのが一般的ですが、このことは、会社が必ず従業員による申請を受けてからでないと年次有給休暇を取得させられないということを意味するものではありません。『従業員年次有給休暇条例』の第5条では「企業・組織は生産、業務の具体的状況に基づき、また従業員本人の意向を考慮して、従業員の年次有給休暇を統括的に手配することができる。」と規定されていることから明確であるように、従業員が享受する年次有給休暇について、会社にはそれを自主的に手配する権利があり、即ち、従業員からの年次有給休暇申請を受けなくても、会社が年次有給休暇を取らせることができるとされています。実務において、会社が以下に記載する手続きを適切に実施していれば、相応に従業員の年次有給休暇未消化のリスクをコントロールすることが可能です。

1.従業員年次有給休暇の取得可能日数及び使用状況の集計管理を適切に行う。留意点は以下の通り。

①従業員の年次有給休暇の取得可能日数は、累計勤続年数をもとに計算されるものであり、その会社での勤務年数だけでなく、入社以前に別の会社で勤務していた場合は、他の会社での勤務年数も含め合算します。一般に実務では、従業員より提供される社会保険料の納付記録、以前勤務していた別の会社との労働契約書等により確認するものとなります。

②年次有給休暇の取得休暇期間の計算には、国の法定祝日、休日を含めません。

2.年内において、従業員の年次有給休暇の消化状況及び会社の生産経営計画に基づき、業務や注文の少ない時期等に休暇を取得させるようにし、なるべく年内に年次有給休暇を全て消化させる。

①会社が、どうしても業務上の必要性から年次有給休暇を取得させられないという場合は、従業員の同意を得たうえで、休暇を取得させないという手配が可能です。しかしながら、未取得の年次有給休暇について、会社は従業員の日給の3倍額の賃金報酬を支払わなければなりません。この3倍額の報酬には、従業員が正常に勤務した期間分の賃金が含まれ、即ち正常に勤務した場合の月給に加え、未取得の年次有給休暇日数分の2倍額の日給が支払われるものとなっています。

②会社の生産、業務の特徴により、どうしても従業員に取得させる年次有給休暇が年をまたいで翌年に及んでしまう場合は、そのような手配も可能とされています。ただし、翌年までに限り、2年以上の繰越しは認められません。

③会社が従業員に年次有給休暇を取得させたにもかかわらず従業員本人が休まない場合、会社は従業員に「本人の原因により年次有給休暇を取得しない」旨を書面で申請させる必要があり、この手続きを踏まなければ、会社には依然として3倍の賃金報酬を支払いのリスクがあります。

以上は、主に従業員が享受する法定年次有給休暇に関する説明となります。実務において、一部の日系企業等では、法定の年次有給休暇とは別に、従業員に福利年次有給休暇を与えているところもあります。その場合、一般的に、法定年次有給休暇を優先して消化し、その後で福利年次有給休暇を使用することをお勧めします。また、福利年次有給休暇は使用者が労働者に与える福利待遇であり、その取得手続きや未消化の場合の対応等は使用者が自ら決定するものとなっているため、日系企業各社で留意する必要があります。

作成日:2018年11月20日