企業によっては、さまざまな理由から一度定年退職した従業員を引き続き雇用するというケースがあります。ただし、雇用の過程においては、労災、疾病等のリスクが発生する可能性があり、企業管理においては、不意の損失がもたらされることのないよう、以下の点に留意する必要があります。

◇速やかに従業員との労働関係終了ならびに労務雇用手続きを行う
   従業員が定年退職年齢に達したとき、会社では従業員に相応の手続きを行って労働関係を終了する必要があります。この手続きを行っていないと、労働契約は従業員が定年退職年齢に達したからといって自動的に終了するものではないという実務観点により、会社と従業員の労働関係が存続し続けることとなり、会社では依然として従業員に対する残業手当、年次有給休暇・病気休暇待遇、労災責任等を負担することが必要となります。定年退職手続きが完了したことをもって、会社で専門の弁護士のサポートのもと労務雇用契約を締結することができるようになり、これにより会社と従業員の法律関係が労働関係から労務関係へと変更され、会社は以後労働契約を履行しなくてよいものとなります。

◇会社の負担を軽減するため、従業員に商業保険を付保する
   従業員が法定の定年退職年齢に達すると、それにより会社ではその従業員について社会保険を付保することはできなくなり、従業員の雇用期間中に労災が発生した場合、それまでは労災保険基金から支払われていた各種費用は全て会社負担に変わります。そのような事態が発生すれば、会社にとっては非常に大きな負担の加重となります。会社のリスクや負担を分散させるためには、従業員に商業保険の「雇用者責任保険」を付保し、従業員への賠償を保険会社に肩代わりしてもらうことが可能です。企業によっては従業員に事故傷害保険のみを付保して雇用者責任保険を付保しないところがありますが、従業員に労災が発生した場合、事故傷害保険は従業員に対する福利とみなされ、会社の従業員に対する賠償責任を免除したり軽減するものとはならないため、注意する必要があります。