日系企業が外部との契約を締結するにあたり、契約の発効要件として相手方が手付金を支払った後で発効することや、契約に関して紛争が発生した場合に日系企業の所在地での訴訟とすること等を約定することがあります。相手方のさまざまな原因によって、契約の発効が遅れ、日系企業が契約に約定した通りに相手方に対し権利を主張することができなければ、「行き詰まり」の状態となり、やむを得ず契約を解除することにもなりかねません。今回は、契約を解除した後で、効力が生じていない契約を根拠に権利を保護することができるかどうかについてご紹介いたします。
1.相手方に契約解除のために発生した損失の賠償を要求できる
   契約の効力が生じていない場合、契約が発効した場合のように約定に基づいて相手方に権利を主張し、相手方に義務の履行や違約責任の負担を要求することはできないものの、契約の効力が生じなかったことによってもたらされた各種損失の賠償まで請求できなくなるわけではなく、損失として例えば出張旅行費、契約履行の準備として支出した材料費等の各種費用の賠償を求めることはなお可能です。2021年1月1日から施行されている『民法典』にも、これについて明確な規定があり、第500条の規定に基づき、日系企業がそのような損失の賠償を相手方に対して請求することが可能とされています。
2.契約に約定した裁判所に対し民事訴訟を提起することも自可能
   交渉を重ねた後、相手方がなおも賠償を拒否する場合、日系企業が契約に約定した裁判所に対し訴訟を提起することができないのかといえば、そうではありません。『民法典』第507条の規定により、契約が発効していなくても、契約中の紛争解決方法に関する条項の効力には影響せず、むしろ裁判所への訴訟提起こそが契約紛争の解決方法の一つとされており、日系企業では契約に約定した所在地の裁判所に対し民事訴訟を提起することが可能です。
3.留意点
   実務において、契約が発効していなければ、効力の生じていない契約に基づいて相手方に賠償を請求したり裁判所への訴訟提起はできないと考え、相手方に対して権利保護の主張をする機会を放棄してしまう日系企業があるかもしれませんが、そのような考えは正しくありません。契約がさまざまな原因から発効していない場合、まずは専門の弁護士にサポートを依頼し、弁護士を通じて相手方や政府機関と交渉し、なるべく契約を発効させるようにする働きかけが必要です。それでも契約の効力を生じることができなかった場合には、損失の範囲を確定し、相手方の賠償請求の手段を講じ、日系企業の損失を減らすためにも、弁護士に協力を要請すると良いでしょう。