中国にある企業でも日本のように「休眠」することを選択し、企業の経営主体としての資格を残すことができるかというご質問が、これまでにも多くの日本本社や現地法人から寄せられています。中国の法律規定により、企業が連続2年にわたり年度報告を申告していなければ、市場監督管理機関は企業の営業許可証を取り上げることができるとされています。
   特に、コロナの影響を受けて生産経営が困難となり、休業せざるを得なくなった企業も少なくありません。それでも経営継続を望み、中国の顧客、ブランド、市場を諦められない外資系を含む一部の現地企業では、そのような問題を解決することができずにいました。あるいは、企業が年度報告を申告していなかったことで、営業許可証が取り上げられたり、市場監督管理の「ブラックリスト」に登録される状況も多々発生しています。
   コロナ下におけるビジネス環境を改善し、企業が一時的な困難を乗り越えられるようサポートし、一方で「ゾンビ企業」には「休眠」を口実に責任逃れをさせないために、今年8月24日、国務院は『市場主体登記管理条例』(以下『条例』という)を公布し、企業の「休業」、すなわち休眠制度について新規定を設けました。『条例』は2022年3月1日から施行されることになっており、今回は『条例』の「休業」制度について簡単にご紹介いたしますので、ご参考いただければと思います。

◆ 中国の「休業」制度及び制限条件
   中国の「休業」制度はすなわち「休眠」制度のことですが、日本の「休眠」制度とは一定の相違があります。『条例』では「休業」の申請について以下のように一定の条件と手続きを設けています。
1.どのような企業に「休業」が認められるか
   現時点では、自然災害、事故災害、新型コロナウイルス等の公共衛生事件、社会安全事件によって生産経営が困難となった企業に限り、「休業」を申請できるとされています。
2.「休業」の制限条件と前提:労務問題が解決していること
   中国では、休業を申請したい企業はまず、従業員と協議し、例えば労働契約の中止又は解除、賃金の支給有無、社会保険料の納付有無といった労務問題を適切に処理している必要があるとされます。また、企業から現地登記機関に休業期間や法的文書の送達先住所を報告する届出手続きを行う必要もあります。
3.「休業」期間は最長3年まで
   『条例』では「休業」期間は最長でも3年を超えてはならないと規定されています。その後「休業」期間を延長できるかどうかについては、現在の法律では明確な規定がなく、以後の整備が待たれます。
4.「休業」期間中も税務申告や納税の履行が必要
   企業が登記機関への「休業」申請を行っても、「休業」期間中も依然として毎月、毎四半期の納税申告を行う必要があり、土地や不動産を所有している場合は、不動産税や都市部土地使用税を従前通り納付することも必要です。
   実際に企業が「休業」状態に入っても、政府機関ではビッグデータによる監督管理や追跡が行われるため、企業が期日までの納税申告を失念すれば、「休業」の選択にも不利な影響が出るおそれがあります。
5.政府機関との正面交渉の手順を踏むことは必須
   コロナ禍の影響から、中国の企業では、外資系も含め経営管理や税務等のさまざまな面に問題が生じ、それらに適時対処できていないと、政府機関による罰金を科される等の潜在的リスクとなるため、経営を継続できずに「休業」を選択する企業もあるかと思います。しかしながら、登記機関で「休業」の届出手続きを行う際、多少なりとも政府機関からの問題指摘を受け、「休業」手続きができなくなる可能性もあります。そうした場合に、企業が政府機関と正面から適切に交渉、説明し、政府側の理解を得ることがきわめて重要となります。
   政府機関との交渉には2段階あり、最初は「休業」前の段階で、正確かつ合理的な方法で、交渉テクニックを運用して政府機関と交渉した末協議により同意を得られれば、1、2回でスムーズに「休業」手続きを済ませることができます。2回目の交渉は休業後であり、休業中に発生しうる税務、市場監督管理機関による処罰等のさまざまな問題に対処する中で、政府機関から質問や連絡を受けた場合、やはり企業が正面から政府機関の提示する質問に対応することができれば、以後の営業再開を保証でき、あるいは将来的な簡易抹消、閉鎖へのプロセスの確保にもつながります。

◆ 日系企業へのアドバイス
   『条例』では「休業」制度について規定されているものの、企業が「休業」を申請する前に債権者や債務者への告知の要否、「休業」後に企業ではどのような義務や責任を履行すべきなのかについてはまだ規定がなく、今後の関係機関による実施細則の制定で規定が明確化されると見られています。各日系企業でも、国務院、国家市場監督管理機関の関連動向にご注目ください。
   また、政府機関でビッグデータを活用した監督管理が行われていることから、日系企業で経営管理上万全の配慮を行っていなければ、「休業」選択により却って企業に何らかの困難や支障がもたらされる可能性もあり、その場合は簡易抹消の方式を検討する必要が出てきます。『条例』では企業の簡易抹消の制度についても明確に規定されていますが、紙幅の都合上今回はその内容を割愛し、以後の機会に取り上げさせていただきます。