WeChatは電子メール、チャット、オンライン決済、ショッピング等の多くの機能を統合したコミュニケーションツールのプラットフォームです。『「民事訴訟証拠に関する若干の規定」の改正に関する最高人民法院の決定』が施行されて以来、WeChat記録が訴訟の中で証拠として出現する頻度がますます高まり、借入契約、売買契約、取引に関するやりとり、労使紛争、提携協議等をめぐる紛争の中でもしばしば使用されています。ただ、電子証拠にあたるWeChat上の証拠は、書面の証拠に比べて使用や保存に関する要求が高いため、今回はその保存と保全について、法律規定及び実務経験を踏まえてご紹介いたします。

◆保存と保全に関する留意点
1.WeChat証拠の原始媒体の保存
   WeChatの「チャット」や「モーメンツ」に上げた文字やテキスト、公式アカウントの文章等は、最もよく利用されるWeChat証拠であり、スクリーンショット、写真、エクスポート等の方式で保存することができ、写真、音声、動画については公証による確認を受けて保存することとなります。決済、送金、「紅包」機能の使用に伴い発生する支払情報は、WeChatの「Pay」画面に保存され、閲覧することができます。ただし、原始媒体が存在しなければ証拠の形式が不適法とされてしまうため、前記の電子データの保存されているスマートフォン、PC等で原始媒体を保存しておくことがより重要となります。
2.端末クリーニング機能により証拠の使用に支障が出るおそれ
   スマートフォンの自動クリーニングによって重要な内容、写真、動画等が削除されてしまうことがあります。一旦削除されてしまったデータを完全に修復することは難しく、これにより重要証拠が滅失したり毀損されるおそれがあります。なんとか修復できたとしても、裁判所からその真実性や適法性が疑われる可能性があるため、スマートフォンの自動クリーニング機能の設定を十分確認しておくことが重要です。
3.おろそかにできないWeChat証拠の保全
   実態として、自ら取得した証拠の管理は不完全になりがちであり、電子データは改ざんされやすいものです。当事者の一方が提供したWeChat証拠が公証または第三者証拠保存機関による確認を受けており、相手方にもそれを覆す確かな証拠がなければ、WeChat証拠が証拠として認められる可能性は高まります。特に、商標をめぐる権利侵害、模倣・粗悪商品等に関わる紛争においては、重要なWeChat内容について証拠を固定、保存して速やかに保全できれば、より有効となります。

◆日系企業へのアドバイス
   関連法律法規では、WeChat証拠収集の方式及び手順について比較的明確な規定が設けられているものの、実務対応として、WeChat内容のプリントアウトやスクリーンショットを裁判所に提供するだけの企業や個人もあり、このような方法で提出されたWeChat証拠は裁判所から認定される可能性が低くなります。このためWeChat証拠の完全性に留意する必要があり、チャット双方の個人情報画面と、データを保存した原始媒体及び原始媒体上の完全なチャット記録を提出し、その出所と使用がいずれも適法であることを保証することが必要となります。