近頃、日本貿易振興機構(JETRO)が中国の現地日系企業を対象に「マネジメント対象としているリスクの種類」について調査を行ったところ、最上位は「従業員の不正・贈収賄等のリスク」で、9割に及ぶ現地企業が不正問題をポストコロナ時代における最大のリスクと捉えていることがわかりました。
   現地企業の不正は以前から存在していたものの、駐在員が覚知するケースが少なかっただけで、駐在員の経営環境に対する理解や認識が深まるにつれ、不正の深刻さが近年になってようやく意識されるようになったという見解もあります。それでも、不正行為を速やかに発見して損失の拡大を回避することの難しさが、依然として悩みの種となっています。
   以下では、不正行為の兆候および不正発見に至るルートについてご紹介いたします。

1.不正行為の兆候
   中国企業反不正連盟が発行する「中国企業不正防止調査報告(2019)」、および公認不正検査士協会(ACFE)の「グローバル不正報告(2020年)」によると、不正行為が発見される前に見られる兆候として、それぞれ以下の内容が列挙されています。

【中国企業不正防止調査報告(2019)】
(1)業者/顧客と異常に親密(49.78%)
(2)統制上の問題、職務分掌を渋る(35.5%)
(3)違法行為を気にする様子がない(20.78%)
(4)会社の制度や上司に対する不満(14.72%)
(5)分不相応な生活(13.42%)

【グローバル不正報告(2020年)】
(1)分不相応な生活(42%)
(2)経済的困窮(25%)
(3)業者/顧客と異常に親密(19%)
(4)統制上の問題、職務分掌を渋る(15%)

   両調査の結果から、中国では「業者/顧客と異常に親密」が半数近くを占めており、現地企業の対策における参考情報となります。

2.最も主要なルートとしての通報
   不正発見のルートには通常、ホットライン、内部監査、外部からのクレーム、ビッグデータ分析、政府機関による取締り、SNSによる発信、ITモニタリング等の方式があります。中国国内だけでなく国際的にも、通報によって多くの不正が発見されています。
   「中国企業不正防止調査報告(2019)」によると、発見ルートの上位3項は、ホットラインを通じての通報(47.19%)、内部監査(29%)、外部監査(11.26%)となっており、ACFEの「2020年グローバル不正報告」では、発見ルートの上位3項は、通報(43%)、内部監査(15%)、経営陣の自主調査によるマネジメントレビュー(12%)となっています。

◇日系企業へのアドバイス
   通報ホットラインを設置していない企業における不正の損失が、ホットラインを設置している企業よりも高くなる傾向があり、通報ホットラインがあれば不正発見にかかる時間を有効に短縮することができます。実務において、中立・客観的な立場の法律事務所にホットラインの設置を依頼することで、通報者の懸念を有効に回避できます。不正の手がかりを得た後、独立した第三者機関による法務DDや契約書レビューなどによって不正の証拠を収集することも有効です。