中国では2015年から実施されてきた「二人っ子政策の全面開放」の効果が予期した水準に届かず、今年6月には国務院が「三人っ子政策」を明確に打ち出しました。夫婦一組につき3人まで子女をもうけることができるとして、中国が直面しつつある高齢少子化の回避策となっています。
   全国各地で『人口及び計画出産条例』が改訂されたことに伴い、11月26日、北京市人民代表大会常務委員会では『「北京市人口及び計画出産条例」の改正に関する決定』(以下『条例』という)が審議により可決されました。
   『条例』の改正が会社の労務管理にどのような影響をもたらすのか、ポイントを説明します。

1.育児休暇、一人っ子の父母のための看護休暇を新設
   『条例』では、新たに育児休暇制度が設けられました。会社従業員は男女を問わず、子女が3歳になるまで、夫婦双方が1人1年につき5業務日の育児休暇を取得できます。このほか、『条例』では一人っ子の父母の看護休暇も設けており、一人っ子の父母が看護を必要とする場合、会社はその子女に1年につき累計10業務日までの看護休暇を与えなければならないとされます。
   ただ、育児休暇、看護休暇は全く新しい制度であり、実施においては多くの現実的な問題に直面することが必至と考えられます。例えば、複数の子女をもつ従業員において、2人なら10業務日、3人であれば15業務日の育児休暇が与えられるのか、さらには「看護を必要とする」父母の具体的な状況、入院状況の有無といった基準に制限があるのか等、『条例』では明確な規定がなく、現地企業では実情を踏まえて就業規則に具体的な実施方法を明確に盛り込んでいくことが必要となります。

2.出産休暇の延長
   『条例』では、出産休暇の日数が30日増加しました。『条例』の改正前では、北京市の女性従業員は128日の出産休暇を享受できたところ、改正後の『条例』によって158日に増えたこととなります。
   ここでポイントとなるのは、『条例』では増加した30日の出産休暇期間中の賃金については規定しておらず、医療保健基金から出産手当基準により支給されるのか、企業が支給するのか等が現時点では明確に規定されていないことに注目する必要があります。また、増加した30日の出産休暇を放棄した場合に、保健基金からの出産手当と賃金収入を得られるのか否か、明確な規定も今のところありません。今後のさらなる法整備に注目するとともに、現地企業の実情に即した就業規則の修正が必要となります。

◆ 日系企業へのアドバイス
   『条例』の施行により、従前の休暇制度は変更されることとなります。新たな休暇制度の実施は会社と従業員の利益バランスに影響を及ぼすものとなるため、現地企業の実情を加味したうえで、どのように就業規則中の休暇の実施方法を修正するかが課題となります。現地企業での規則制度改訂においては、事前に弁護士に相談、確認し、休暇制度について総合的な制度設計と検討を行ったうえで就業規則や労働契約に反映させ、内容の修正後に民主的プロセスの履行と公示を行うことで法的効力を生じさせる必要があります。
   近年中国では法律法規の改正がかなり多く行われていますが、一部企業では従前の規則制度や契約書をそのまま使用し続け、一部の内容が現行法規の要求に適合しなくなっている状況が多々あります。そのような会社の各種規則制度、労働契約、取引契約等について、弁護士による現行法規に基づいた総合的な見直し、審査を受け、コンプライアンス上適正なものに修正し、整備することをお勧めいたします。