近年、中国での環境保全に対する規制の厳格化、従業員の賃金上昇、米中貿易摩擦などによる影響を受け、一部の現地企業では経営赤字が発生しています。具体的な目処は立たずとも、赤字経営への懸念から中国からの適法な撤退方法を早めに把握しておこうという中国現地法人の責任者や駐在員の姿勢は多くみられます。ですが、実際に「簡易抹消」がどのようなものなのか、耳にしたことはあるが詳細についてよく理解していないという声も多く聞かれます。
   昨年12月28日、国家市場監督管理総局等の5機関が合同で公布した『企業登記抹消の手引き(2021年改正)』(以下「手引き」という)では、簡易抹消プロセスに関してより明確に規定しています。以下、「手引き」に示された簡易抹消に関する問題について説明いたします。

1、簡易抹消のメリット
   中国で2016年から実施されている簡易抹消とは、簡素化された企業の抹消登記手続きの方式です。手続きを減らし、公告の方式や登記書類を簡略化することにより、経営未開始の状態、又は債権債務状態が明確となっている企業がより迅速に抹消手続きが完了できるよう図ったものとなります。
    以下、一般的な抹消と簡易抹消の手順と必要書類の違いを比較してまとめました。
●簡易抹消の実施以前からある一般的な抹消
・手順:企業の登記抹消には「清算組」の届出を行い、省レベルの新聞に清算公告を掲載する必要があります。45日間の公告期間が満了してから税務機関での税務抹消手続きを行ったうえで、企業の登記機関で抹消登記を行います。
・必要書類:株主による会社解散決議書、清算組届出証明書、省レベルの新聞に掲載した清算公告、清算組の署名のある清算報告書など。
●簡易抹消
・手順:「清算組」メンバーの届出は不要となり、省レベルの新聞への公告掲載は「国家企業信用情報公示システム」上での公告掲載(無料)に変更され、公告期間も20日間でよい、となりました。
・必要書類:申請書、株主が署名した「誓約書」など。

2、適用対象
   「手引き」では簡易抹消を適用できる対象について、「債権債務が発生していないか、すでに債権債務の弁済を完了しているもの(上場している株式会社を除く)」と定めています。
   また「手引き」では、簡易抹消を適用できない対象についても以下の通り列挙しています。
(1)清算を完了していない費用、従業員賃金、社会保険料、法定補償金、納付すべき税額(延滞金、罰金)などの債権債務が残っているもの
(2)国家規定による参入特別管理措置(ネガティブリスト)の実施に関わる外商投資企業
(3)企業経営異常リスト又は重大な違法による信用失墜企業リストに登録されているもの
(4)立件調査を受けているか、司法協力中であるもの
(5)その他

日系企業へのアドバイス
   簡易抹消手続きが適用される前提として「未清算の債権債務が存在しないこと」となりますが、長年経営している企業には概して何らかの債権債務が存在するものです。実務において、簡易抹消手続きを適用するために、簡易抹消登記の申請にあたって事前に全従業員との労働契約を協議解除して経済補償金を支払い、資産を処分し、債務を弁済し、債権を回収しておくという現地企業もあります。このようにすることで、全ての債権債務の清算を済ませたうえで簡易抹消手続きを申請し、適用が認められたケースもあります。
   弊所では、これまでに多数の企業の簡易抹消申請のサポート実績がございます。必要のある方はご遠慮なくお問い合わせくださいませ。