最近、中国の調味料業界のトップ企業として有名な海天味業社が生産する醤油の添加物に関する問題が世間の注目を集めています。同社は「添加物については、食品安全基準を満たしている」との声明を出したものの、国内と国外で異なる生産基準を用いていたことに批判の声が上がりました。政府はこうした問題発生時の責任の所在が不明確となっていたり、安全管理が整っていないことを受けて、企業に食の安全に関して事業者責任を全うさせるため、 2022年8月17日、国家市場監督管理総局から『企業が食の安全について事業者責任を全うすることに対する監督管理規定(意見聴取稿)』(以下、「本規定」という)を公布し、パブリックコメント募集期間を経て、9月22日に審議で承認され、公表されました。

海天味業事案
   9月下旬、同社が生産する醤油について、国内外で異なる生産基準を使用していることを示す写真がネットで投稿された。日本向けに販売する醤油には天然原料と調味料のみを使用しているのに対して、中国向けに販売する醤油には、安息香酸ナトリウムなど添加物が使用されていることが明らかとなり、批判の声が上がった。ネット上では、添加物として発がん性があるとされる安息香酸ナトリウムを使うのはコスト削減のためで、原価を抑えるために、安全性の高いソルビン酸カリウムを使用しなかったことも批判された。

1.新たな法整備で事業者責任を監督
   食品添加物や有毒・有害物質の残留など、食の安全を脅かす問題を起こした企業の世論への対応は、中国では常に大きな注目を浴びてきました。中国政府は以前から食の安全に関する法制度の整備に動いており、例えば、『食品安全法』第34条、第 59条、第60条には、食品添加物の製造、販売、使用に関する具体的な規制が定められています。一方で、これまで一部の企業の食品安全管理に関わる人員配置の実態が法律の要求通りとなっていないことを中国政府は問題視し、本規定を整備しました。

2.食の安全について企業内の個人にも責任
   この規定では、特定の食品製造企業および集中型飲食企業が運営する食堂には、食品安全責任者の職位と人員を配置する必要があることが明確に記されています。 たとえば、300人以上が利用できる幼稚園の食堂、500人以上が利用できる学校の食堂、および 1,000人以上が利用できるまたは食事を提供する企業がそれにあたります。(規定第5条)
   また、企業が負うべき責任を明確にするだけでなく、食品安全関係者が食品安全法などの関連規制に違反した場合の責任も明確にしています。 たとえば、企業が故意に違法行為を行ったり、消費者の健康に大きな影響を与えたり、食品安全事故などの重大な結果を引き起こしたりした場合、企業の法定代理人、直接に監督する者、責任者にも企業から得た収入の1倍以上10倍以下の罰金が課せられます。 (規定第19条)

◆日本企業へのアドバイス
   本規定の施行後、政府は食品企業に対する監督と検査を強化するとみられるため、日本の企業はただちに本規定の内容を把握し、中国における食品安全管理制度と人員配置を再考する必要があります。また、企業の法定代表者など食品安全管理に関わる人員が本規定や社内規定に基づいて職務を遂行する場合、職務上の記録を残すようにして、当局による検査に備える必要があります。
   中国に根を下ろして発展したいと考える企業は、食の安全の分野のみならず、あらゆる分野の中国独自の法制度を理解するだけでなく、中国の人々の考えや特徴や世論の動向を把握する必要があります。