コロナ禍における収入の減少や失業などが原因で、住宅ローンの返済が滞り、最終的に滞納に至ってしまうケースが少なくありません。では、滞納によりどのような結果や影響があるのでしょうか。最近も、中国在住の外国人の皆様から、類似するお問い合わせがありましたので、今回は弊所の実務経験をもとに、住宅ローン滞納の事例について分析を行いました。ご参考になれば幸いです。

◆事例
   Z氏は2017年にB市の住宅を総額426万元で購入し、そのうち298万元を銀行から借り入れ、毎月16,800元のローンを組みました。ローン返済開始から4年後、コロナ禍で収入が減少し、ローン返済を継続できなくなり、元本280万元が返済不能となりました。
   この場合、家屋の競売後も、Z氏は銀行に未払い金とその他費用を支払わなければならないのでしょうか。また、住宅ローンの滞納は、その人の信用情報にどのような影響を与えるのでしょうか。

1.本件で、住宅の競売後にZ氏の負担が必要な費用は
   中国の『民法典』やその他の法規に基づき、以下に簡単に紹介します。
(1) 借入金元本の返済
   『民法典』第119条では、住宅ローン契約は銀行と契約者の双方を拘束すると規定しています。Z氏はローンの元本280万元余りの返済が完了しておらず、250万元で家を競売してもローン元本をすべて返済するには足りないため、『民法典』第579条の規定に基づき、Z氏は残額30万元のローン元本を返済する必要があります。
(2) 違約金、利息、資金回収のための費用等の弁済
   違約金が発生した場合、『民法典』第583条、第584条、第585条の規定に従うことになります。実務上、延滞利息や違約金はローン契約書に記載されていることが多く、Z氏は銀行から違約金や延滞利息の支払いが求められます。
(3)銀行は裁判所に提訴し、訴訟費用、保全費用、弁護士費用などもZ氏の負担となりました。

2.住宅ローン滞納による個人信用への影響
   中国の関連法律を参考に、住宅ローン滞納が個人信用情報に及ぼす影響を以下にまとめました。
(1)個人信用情報ブラックリスト入りの可能性
   住宅ローンを滞納した場合、中国人民銀行信用情報センターの個人信用情報にネガティブ情報が記録される、或いは銀行の信用情報ブラックリストに入れられます。
   『信用情報業務管理方法』第20条の規定では、個人信用情報のネガティブ記録は、返済完了日から5年間記載されるとしています。この期間、Z氏とその配偶者がローン借り入れなど銀行の金融サービスを利用する際に、一定の制限がかかります。
(2)信用喪失のブラックリスト入りは、個人資産や、交通・消費、子供の就学・就業にも影響
   『最高人民法院信用情報ブラックリストの被執行者名簿情報公布に関する若干の規定』第1条に、裁判所の判決執行期間中、返済ができるにも関わらず、返済を行わなかった場合は、「信用喪失被執行者リスト」(又は、信用喪失のブラックリスト)に入れられると明記されており、交通、住居、会社の役員・幹事・管理職就任、又は、子供の就学・就業なども制限される可能性があります。

◆日系企業の駐在員と従業員へのアドバイス
   中国と日本の住宅ローン政策には異なる部分があります。日本では、住宅ローンが返済不能となった場合、いくつか対処方法は考えられますが、その一つとして、自己破産制度を利用し、個人で自己破産を申請することもできます。 一方、中国では、現時点で、2020年8月26日に深セン市で適用された「深セン経済特区個人破産条例」の個人破産制度を除いて、国家全体としての個人破産法がなく、個人が住宅ローンを返済できなくなった場合に自己破産を申し立てることは実務上ほぼできません。
   『民法典』第12条の属地原則により、日本人個人の中国での住宅購入には中国の法律が適用されます。滞納者本人が日本にいる場合、日本人滞納者に対して中国における罰則や責任を追究することは難しくなりますが、返済ができるにも関わらず、返済を行わなかった場合は、信用情報又は信用喪失のブラックリストに入れられる恐れがあることにご留意ください。